生コンクリートはミキサー車で現場に運搬され、木や金属で作られた型枠の中に流し込まれることで基礎や柱、梁や床など建物を支える部材を形づくります。
皆さんがマイホームを建てる時にも、同じように基礎部分がコンクリートで作られますが、コンクリートを流し込んだ後の保護(養生)や型枠を取り外す時期について、心配されたり不安に思われている方が多いようです。
今回は、コンクリートを流し込んだ後の養生作業と必要な日数、型枠を取り外しても良い時期や条件などについて解説していきます。
この記事でわかること
1. コンクリート打ち込み後の養生期間
コンクリートを型枠に流し込んでから固まるまでの間、急激な乾燥や温度変化、風雨や直射日光から保護したり、十分な強度が確保できるまでの期間振動や外力の悪影響を受けないように保護することを養生といいます。(参考:コンクリートの養生方法をプロが全種類解説)
コンクリートはセメントと水が反応して化合物を形成する反応(水和反応)が進むことで固まり、強度を増して硬化していきますが、硬化する初期の段階で急激な乾燥を受けるなどして、セメントの水和反応に必要な水が不足すると、強度が十分に発揮できない可能性があります。
また、水和反応は化学的な反応であるため、コンクリートをとりまく温度が極度に低いと反応が遅くなり硬化や強度の増進が遅れる傾向があります。
このような不都合を生じないために、打ち込み初期のコンクリートは養生マットや水密シートによって乾燥や外気温の影響から保護し、所定の期間養生することが必要になります。
1-1. コンクリートの養生日数の規定
では、コンクリートの性能をきちんと発揮するための養生は何日くらい継続して行えば良いのでしょうか。
建築学会から刊行されている「建築工事標準仕様書」によると、普通ポルトランドセメント(最も一般的な種類のセメント)を用いたコンクリートで、標準的な住宅基礎の耐用年数の場合養生期間は5日以上としています。
コンクリートを打ち込んでから最低5日は、水和反応に必要な水分が不足しないように養生マットや水密シートで覆うか、散水・噴霧や膜養生剤の塗布などで保湿する湿潤養生を行う必要があります。
しかし、工期や工事工程などの事情によっては規定の養生するのが難しい場合もあります。
必ずしもこの日数湿潤養生をしなければ、コンクリートは必要な性能が発揮しないのかといえばそうではありません。
前述のJASS5では、打ち込んだコンクリートの圧縮強度が10N/mm2以上に達したことを確認すれば、以降の湿潤養生を打ち切ることができるとしています。
これは過去の実験的研究から、10N/mm2以上の圧縮強度まで硬化が進んでいれば以降の湿潤養生を行わなくとも、乾燥による強度増進の不足や中性化(炭酸ガスの浸透)に対する抵抗性の低下などの問題は生じないことが分かっているからです。
1-2. 気温の高いときや乾燥時のコンクリート養生方法
では、ここからは特に環境条件が厳しい際の養生の方法について解説します。
外気温が高い夏季にコンクリート面が日光の直射を受けたり、風によって表面の水分がどんどん蒸発していってしまうような状態のときには、プラスチック収縮ひび割れが発生する危険性が極めて大きくなります。
プラスチック収縮ひび割れとは、生コンクリートが打ち込まれたごく初期の段階にコンクリート表面近傍の水分が乾燥によって急激に失われることで生じる乾燥ひび割れです。
表面が日光の直射を受けたり、強い風に曝されたりしたい場合によく発生し、発生の初期のまだコンクリートがフレッシュな状態であればコテで軽く叩いたり均すことで修復することができます。
このような場合は、とにかく乾燥から守るため
- 養生マットや水密シートなどで覆い、水分を維持する方法
- 硬化したコンクリートに散水や噴霧を行う、または水を張って水分を供給する方法
- コンクリートを保湿する膜養生剤や浸透性の養生剤を塗ることで、水分の逸散を防ぐ方法
などの手段がとられます。
1-3. 冬季、凍結期のコンクリート養生方法
一方、冬季にはセメントの水和反応の進みが遅くなるために硬化の進行が遅れたり、打ち込み初期のコンクリートが凍結すると、初期凍害というダメージを受けることがあります。
このような時期には、一般的に保温養生と給熱養生という2通りの方法のいずれかをとり、コンクリートを低温の影響から守ります。
水は凍結して氷になる際に9%程度体積が膨張します。コンクリートがまだ硬化の初期段階にあり凍結膨張圧に耐えるだけの強度がない場合には、コンクリートも膨張し水が溶けた後も内部組織が緩んだ状態になります。このような硬化の初期段階で凍結と融解を受けた状態を初期凍害といい、初期凍害を受けたコンクリートはその後の強度や耐久性が低くなり品質は劣ったものとなります。
保温養生
保温養生は、シートや断熱材でコンクリートを覆い、セメントの水和反応で発生する熱を利用して所定の強度が得られるまで保温する方法です。
外気温が 0 ℃以下になるおそれのある場合に用いられますが、気温が著しく低い場合には熱量が不足するため適温に保つことは困難です。
給熱養生
給熱養生は、保温のみでは強度増進に必要な温度を確保できないときや、コンクリートが凍結するおそれがある際に、コンクリートや周囲の環境に熱を加えて養生する方法です。
打ち込まれたコンクリートは、自身の温度がおよそ-0.5~-2.0℃程度まで低下すると凍結すると言われています。
この凍結による初期凍害から守るため、打ち込んだ基礎などをテントやシート等で覆い、内部の空間をジェットヒーターや石油ストーブで暖めることで養生を行います。
この給熱養生には、ほかに熱源として練炭を使用する方法や、電気で熱を発するマットを被せる方法もあります。
2. コンクリートの型枠を取り外す時期
生コンクリートが打ち込まれる型枠は、コンクリートの形状を決める鋳型になるだけではなく、打ち込み初期のコンクリートを冷気や乾燥、外からの衝撃から守る緩衝材料としての役割もあります。
コンクリートを丈夫にするためには、この型枠による養生もできる限り長い期間行ったほうが良いのですが、工事を進めるためには型枠を取り外して次の工程に進まなければなりません。
では、型枠を取り外しても良い時期の基準は、どのように決められているのでしょうか。
2-1. コンクリートの材齢(打ち込みからの日数)による場合
建築工事標準仕様書・JASS5では、基礎、梁側、柱および壁のせき板(側面の型枠)は、一般的な建物の場合、平均気温が10℃以上20℃未満の場合は6日以上、20℃以上の場合は4日以上経過すれば型枠を取り外しても良いとしています。
ただし、梁の下や天井部分(上階の床下)の型枠については、コンクリートの圧縮強度が設計基準強度に達したことが確認されるまで取り外してはいけません。
2-2. コンクリートの圧縮強度による場合
前の項で示した日数に達しなくても、一般的な建物の場合コンクリートの圧縮強度が5N/mm2以上であることが確認されれば型枠を取り外しても問題ありません。
おおむね5N/mm2以上の強度まで硬化が進めば、コンクリートが凍結温度以下まで下がったとしても初期凍害を受けることなく、また簡単に傷がついたり欠けたりもしません。
しかし、強度確認して型枠を取り外した後も、以降の強度増進を確実なものにしたり、コンクリート組織を緻密にして中性化への抵抗性を増すためにも所定の日数や強度に達するまで湿潤養生は継続することが必要です。
この5N/mm2以上というコンクリート強度の確認方法としては、打ち込まれる生コンクリートから強度試験用のサンプル(テストピース)を採取し、圧縮強度試験機で強度試験をします。
2-3. 規定の日数より早く型枠を取り外したら?
住宅の基礎工事において、コンクリートの材齢や圧縮強度の確認によらず型枠を取り外してしまい、工事業者と施主の間でトラブルになるケースがたまに見られます。
もし圧縮強度の確認によらず型枠を規定の日数より早く取り外してしまったら、乾燥による強度増進への影響やひび割れの発生を避けるため、まずシートなどでコンクリートを覆って型枠があるのと同じような保湿状態にすることと、コンクリートが欠けたり傷がついたりしないように衝撃から保護することが必要です。
そのまま型枠を取り外しても良い日数(平均気温が10℃以上20℃未満の場合は6日以上、20℃以上の場合は4日以上)まで、その状態を保っておくのが良いでしょう。
またJASS5には参考表として、使用するコンクリート配合と圧縮強度5N/mm2を得られる日数について掲載しています。
ここでは、その表から抜粋して一般的な住宅の基礎に使用される配合(普通ポルトランドセメント・呼び強度24~30)についてご紹介します。
型枠の取り外し時期を圧縮強度の結果によらない場合は、こちらの表を初期凍害に対する抵抗性と傷・欠けを防止できる強度が得られる日数の目安として下さい。
圧縮強度5N/mm2が得られる材齢 |
|||||
呼び強度 |
養生温度に対応する養生日数(日) |
||||
2℃ |
5℃ |
10℃ |
15℃ |
20℃ |
|
24 |
5.0 |
3.5 |
2.5 |
2.0 |
1.5 |
27 |
4.5 |
3.5 |
2.5 |
2.0 |
1.5 |
30 |
4.0 |
3.0 |
2.0 |
1.5 |
1.5 |
※建築工事標準仕様書より
2-4. コンクリート構造物の強度を直接調べるには?
コンクリート構造物の強度は、生コンクリートを打ち込む際にサンプルを取って強度試験する方法や、参考となる図書や文献から打ち込み後の日数と強度の関係を調べることで推定することができます。
では、コンクリート構造物の強度を直接調べることは出来るのでしょうか?
代表的な方法は2通りあり、シュミットハンマー(テストハンマー)による方法とコアボーリングによる方法があります。
2-4-1. シュミットハンマー(テストハンマー)による方法
シュミットハンマー(テストハンマー)という試験器具を用い、反発度によってコンクリートの表面硬度から強度を推定します。
メリットは、非破壊検査のためコンクリートに傷をつけたり穴を開けたりしないこと、測定自体が簡易なのでさほど特殊な技能を必要としないこと、試験費用も(比較的)安価なことなどが挙げられます
デメリットは、結果に多少ばらつきが多いことや平滑な面でないと測定できないこと、ある程度表面の硬度が必要なため基本的には打ち込みから28日後以降でないと正確な値とはいえないことなどが挙げられます。
2-4-2. コアボーリングによる方法
コンクリート構造物からコアボーリングマシンという機械を用いて、強度試験用のサンプルを抜き出す方法です。
抜き出せる円筒形のサンプル(コア)は、マシンの刃の直径によって様々な寸法とすることができ、強度試験をする際には直径75mmや100mmがよく用いられます。
コンクリートコアの寸法は、直径と長さの比が1:2の場合を標準としており、長さ200mmのコアが取れる場合は直径を100mmに、長さ150mmの場合は直径75mmとするのが良いでしょう。
コア採取による方法は、直接その構造物からサンプルを取り出すので非常に正確な強度を知ることができます。
しかし反面、コアの抜き出しに多少費用がかさむ他、コアを抜き出した箇所を補修材の充填などで直さなければならないというデメリットもあります。
3. まとめ
この記事では主に住宅の基礎コンクリートの養生と型枠を取り外す基準について書いてきました。
コンクリートの性能を十分に発揮させたり保護するために、養生をとる日数や型枠を付けておく日数は長くした方が良いですが、短縮することでコンクリートがまったくダメになってしまうということはまずありません。
何かの事情やトラブルで所定の日数が取れなかった場合は、しっかり追加の養生などで補った上で工事を進めれば、コンクリートは必要な性能に達してくれるでしょう。
状態に不安などある場合は、専門の調査業者に相談したり、実際に構造物の強度などの調査を行ってもらっても良いでしょう。