レディーミクストコンクリート(以下生コン)は、製造工場でセメント・水・骨材・混和剤などを練り混ぜて工事現場へ配達される建設資材、すなわち材料にあたります。購入者は現場で使用する生コンについて事前に内容を確認する必要があります。
購入者は、配合(各材料の設計値)・設計条件・使用材料などの情報が記載された一枚の書類を見ることで購入予定の生コンの情報を知ることができます。この書類こそが配合計画書です。配合計画書がどのように作成されるのか、また中身がどのようなものなのか、以下に詳細を述べます。
この記事でわかること
1. コンクリート配合計画書の概要
1-1. 配合計画書を作成してから購入者に届くまで
建設工事において、設計者は構造物に要求される性能や耐久性を計算し、設計図や構造特記仕様書を作成します。この中には生コンに関する項目も含まれており、購入者はこれらに基づいて使用する生コンを検討した後、生コン工場を選定し工事監理者の承認を受けます。
一般には、生コンの工事が始まる1.5~2.0ヵ月前には購入者と生コン工場との間で初回の打合せが行われます。ここで検討事項や疑問点などを協議し、使用する生コンの確認を行います。その後、生コン工場は購入者から示された設計図や構造特記仕様書を基に配合計画書を作成し、生コン納入前に提出します。
また、生コンの試し練りが必要な場合や、施工計画を検討する際の参考に配合計画書が使用される場合もありますので、作成後は速やかに購入者の手元に届くことが望ましいでしょう。
1-2. 配合計画書の構成
配合計画書の記載事項は日本工業規格のJIS A 5308で定められています。
① 現場情報
購入者、工事名称、所在地、納入予定時期、配合の適用期間、コンクリートの打込み箇所が記載されています。
※ 適用期間については後に詳細を説明します。
② 配合の設計条件
生コンの呼び方や指定事項がある場合はこの欄に記載されています。
生コンの呼び方は左から「コンクリートの種類」→「呼び強度」→「スランプ又はスランプフロー」→「粗骨材の最大寸法」→「セメントの種類」で表記されます。
指定事項は、設計図や構造特記仕様書などで指定している単位水量や水セメント比の上限値などが記載されており、この指定された値を満足する配合を生コン工場と購入者で協議して決めます。
また、指定事項にはアルカリシリカ反応抑制対策の方法の記載があります。抑制対策の方法は、次によります。
- コンクリート中のアルカリ総量が、3.0㎏/m3以下【記号:AL( ㎏/m3)】
- 抑制効果のある混合セメントを使用する【記号:BB、BC、FB、FC】
- 安全と認められる骨材を使用する【記号:A】
③ 使用材料
生コンに使用する材料の情報が記載されており、ここでは各材料の製品名や種類、産地などの他に主となる物性値が記載されています。
④ 配合表
生コンの配合(生コン1㎥における各材料の設計値)、水セメント比、水結合材比、細骨材率が記載されています。
⑤ 備考
備考欄には、「骨材の質量配合割合、混和剤の使用量については、断りなしに変更する場合がある。」と記載されています。
この意味は、出荷当日に材料の品質が軽微に変動し、コンクリートの品質が変化する場合に対して、緊急に対応するために記載されており、断りなしに変更した場合も購入者には、後に報告が必要です。
また、上記以外に配合計画書の作成日、製造会社・工場名、配合計画者名の記載が義務付けられています。
2. 配合計画書のチェックポイント
配合計画書に記載される内容は、設計図や構造特記仕様書で指定されている事項を満足するものでなくてはなりません。では、配合計画書が実際に手元へ届いた場合、どこを重点的にチェックすれば良いのかを説明します。
2-1. 配合の設計条件
① コンクリートの種類
コンクリートの種類は、「普通」、「軽量」、「舗装」、「高強度」の4種類に区分されています。
② 呼び強度
呼び強度は、JIS A 5308で規定されているコンクリートの強度の区分を指し、無名数であるため単位はありません。この呼び強度に単位(N/㎜2)をつけた強度値を生コン工場は保証します。保証する材齢は通常28日となり、20±2℃の水中養生で管理された供試体で試験をします。
また、建築分野では品質基準強度に構造体強度補正値(S値)を上乗せした調合管理強度を呼び強度としています。
・品質基準強度(Fq)~設計基準強度と耐久設計基準強度のうち、大きい方を採用します。
・設計基準強度(Fc)~構造計算において必要とされるコンクリートの強度の事です。
・耐久設計基準強度(Fd)~構造物の供用期間に応じて必要な耐久性を確保するのに必要な強度の事です。
・構造体強度補正値(S値)~標準養生した供試体と構造体コンクリートの強度の差を補正するための数値です。
③ スランプ又はスランプフロー
コンクリートのコンシステンシーを評価する指標の一つです。この数値が大きいとその生コンは軟らかく、小さいと硬いことを表しています。次に説明する粗骨材の最大寸法と同じく、施工性に関わります。
④ 粗骨材の最大寸法
生コンに使用される粗骨材の最大寸法(㎜)です。部材厚や鉄筋のあき、かぶり厚などによって決まります。鉄筋のあきよりも骨材寸法が大きいと充填が不完全になり、施工が十分に行えず耐久性に問題が生じることがあります。
主な最大寸法は、建築分野では「20」、「25」、土木分野では「20」、「25」、「40」となっています。
⑤ セメントの種類
JISに規定されているセメントには多くの種類があり、強度の発現や発熱量など特性が異なります。温度ひび割れの抑制や、構造物に要求される性能によって選定されます。配合計画書では、セメントの種類によって記号で表記します。
一般的な種類としては、普通ポルトランドセメントが「N」、高炉セメントB種が「BB」、早強ポルトランドセメントが「H」となっています。
⑥ 水セメント比と空気量
構造物の耐久性に大きく影響します。乾燥収縮の抑制や塩分の浸透に対する耐久性を確保するには、水セメント比を低くすることが有効です。また、凍結融解作用に対しては空気量を確保することが有効です。
これらの目的で水セメント比や空気量が設計条件として指定されることがあります。なお、空気量の指定が無い場合は4.5%が一般的になっています。
2-2. 使用材料
使用材料の欄は配合設計に用いた材料について記載されます。
・セメントは「生産者名」、「密度」、「全アルカリ量」が記載されます。
・混和材は「製品名」、「種類」、「密度」、「全アルカリ量」が記載されます。
・骨材は「種類」、「産地又は品名」、「アルカリシリカ反応性による区分」、「粒の大きさの範囲」、「粗粒率又は実積率」、「密度」、「微粒分量の範囲」が記載されます。
・混和剤は「製品名」、「種類」、「全アルカリ量」が記載されます。AE減水剤や高性能AE減水剤などJIS規格に規定される種類がいくつかあり、購入者の指定した種類に適合しているか注意が必要です。
※ 混和材は、使用量が多いため配合計算時に容積として計算が必要になります。また、混和剤は使用量が少ないので、水の一部として考え容積の計算は必要としません。「材」と「剤」、紛らわしいので注意が必要です。
・その他の項目として、「細骨材の塩化物量」、「水の区分」、「目標スラッジ固形分率」、「回収骨材の使用方法」が記載されます。
2-3. 配合の適用期間
配合の適用期間は、適用する期間に加え、記載している配合設計が標準配合なのか修正標準配合なのかを記載します。ここで、修正標準配合とは、想定するコンクリート温度が大幅に相違する場合、運搬時間が大幅に変わる場合、若しくは骨材の品質が所定の範囲を超えて変動した場合に修正を行ったものとなっています。
また、建築分野では構造体強度補正値の期間を記載する場合もあります。これは、打込みの時期によって使用する生コンの呼び強度が変わる可能性があるからです。例として寒い時期と暑い時期で説明します。
寒い時期は、コンクリートの凝結・硬化段階に凍結が生じると硬化不良や必要な強度が得られない(凍害を受ける)可能性や、強度の発現が遅れる可能性があります。
これらを防止するためには、必要な温度を確保するための採暖養生や強度の発現に見合った強度補正(強度の割り増し)が有効です。
また、温度が高ければコンクリートにとって好ましいのかというと、そうは言いきれません。日平均気温の平年値が25℃を超えるような時期(暑中期)は特に注意が必要です。
暑中コンクリートは初期強度こそ発現が促進されますが、標準期と比べると長期強度の増進は小さくなります。構造体コンクリートも標準養生と比べると強度に差が出るため、特記が無い場合は強度補正値を6N/㎜2とするよう決められています。
コンクリートの強度は構造物の性能を決定づける重要な要素と言えます。
「配合の適用期間」に記載される時期がどのような時期なのか、使用される配合がその時期に見合っているのかを確認する事も配合計画書のチェックにおいて重要な項目の一つなのです。
3. 配合計画書に貼ってあるシールは何?
配合計画書に貼ってある直径3センチ程の丸いシールは通称「マル適マーク」と呼ばれています。全国生コンクリート品質管理監査会議が年に一度行う品質監査において、その生コン工場が監査基準に適合しているという証なのです。
シールのデザインは真ん中に大きく漢字で「適」と描かれており、その周囲に年度、全国生コンクリート品質管理監査会議と印字されています。シールが何年度のものなのかを分かりやすくするために、色もその年度によって変わります。
品質管理監査の合格証も送られるので、このコピーを添付することも可能ですが、配合計画書にこのシールを貼ることで、生コンを納入する工場の品質管理能力が十分であることを購入者は一目瞭然で判断できるのです。
4. まとめ
コンクリート工事において生コン工場が最初に作成する配合計画書について説明しました。施工者の視点から見ても、配合計画書はコンクリート工事における入り口とも言えるのではないでしょうか。たった一枚の書類なのですが、その中身は生コンに関してとても多くの情報が詰め込まれているのです。
内容は専門的な用語も含まれており、一見難しい書類のようにも思えるのですが、書かれている内容を一つずつ紐解いていくと情報量が多いだけでそれほど難しいものではないということが分かっていただけることでしょう。
配合計画書を目にする機会があれば、是非そのコンクリートの情報を読み取ってみてください。