コンクリートがアルカリ性を示すのはセメント内に含まれる鉱物が水と反応(水和反応)して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が生成されるからです。
酸性とアルカリ性を示すphは0~14の数値で示されますからコンクリートはかなり強いアルカリを示していると言ってよさそうです。ちなみに身近なアルカリ性のものとして洗剤が挙げられます。
塩素系の漂白剤やカビ取り剤などが12~13pHくらいなのでそれと同じくらいの強いアルカリ性と思っていただければ良いと思います。
この記事でわかること
1. コンクリートは、なぜアルカリ化させるのか
コンクリートには、圧縮しようとする力に強く、引っ張られる力に対しては弱い(圧縮の約1/10)という特性があります。この引っ張られる力を補うための部材として鉄筋が多く使用されます。
これが鉄筋コンクリートです。鉄の部材としての特性には、コンクリートと比べ頑丈であるものの、錆などの腐食に弱い、熱に弱い、コンクリートと比べ高価という弱点があります。コンクリートの弱点を補う為に鉄を使用し、その鉄の弱点をコンクリートの特性で補う相互補完性を持った合成部材が鉄筋コンクリートとなります。
コンクリート内がアルカリ性で保たれていることは鉄筋の腐食防止に関して非常に重要です。鉄は大気中の酸素と反応して酸化しますが、これが「錆」すなわち「腐食」です。このため鉄骨構造の構造物(東京タワーなど)は、腐食防止のため特殊な加工をしたり、数年おきに塗装を塗り替える作業が必要になります。
しかし、コンクリート内にある鉄筋はコンクリートの強アルカリ性により表面に薄い皮膜(不動態被膜)を生成することで腐食を防止することができます。
このため、鉄筋を含むコンクリートの内部がアルカリ性であることは鉄の錆などの腐食防止に対して非常に重要なことなのです。
2. コンクリートがアルカリ化するまでのメカニズム
前述したように、コンクリートがアルカリ性を示すのは水和反応により水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が発生するからです。
コンクリートが固まる過程で発生する水酸化カルシウムに含まれる水酸化物イオン[OH-]がコンクリートのアルカリ性を示しているということになります。この水和反応は数年かけて継続していきますからコンクリートのpHはこの水和反応が完結するまでアルカリ性が強くなっていくということになります。
pHとは、水素イオン濃度により示されるアルカリ性、酸性を示す指数のことをいいます。
水溶液の酸性、アルカリ性は、水溶液中の水素イオン(H+)および水酸化物イオン(OH-)の濃度で決まります。水素イオンが多ければ酸性を示し、水酸化物イオンが多ければアルカリ性を示します。
温度が一定であれば、どのような水溶液でも常に水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH-]との間に次のような関係があります。
[H+][ OH-]=Kw=10-14(一定) (水の温度が25℃の場合)Kwは「水のイオン積」あるいは「水の解離定数」と呼ばれます。純水または中性溶液においては、
[H+]=[ OH-]=√(Kw)=√10-14=10-7 [H+]あるいは[OH-]のどちらか一方の値を知れば、他方の値もわかります。そこで、実際には[H+]だけを測定し、これをpHの目安としているというわけです。
3. コンクリートの中性化とは?
コンクリートも経年変化や地震などの影響によりひび割れが発生してきます。これはどんなにうまく施工したとしてもしょうがないことです。そこから入り込んだ大気中の二酸化炭素と前述の水酸化カルシウムが反応して炭酸カルシウムを生成します。
これにより表面から徐々にコンクリート内部のpHが10前後に低下していきます。これをコンクリートの中性化と呼んでいます。
4. 中性化による数々のリスク
コンクリートの中性化はコンクリートそのものの強度に影響を与えることはありません。
ただし、コンクリートの表面から内部へと中性化が進み鉄筋周辺まで達すると、強アルカリ性により生成されていた鉄筋の不動態被膜が破壊され、鉄筋は腐食し始めてしまいます。
鉄は錆びると体積が増えます。これによりコンクリートを内部から圧迫し、ひび割れや剥離を発生させてしまいます。発生したひび割れや剥離の箇所からさらに中性化が進み、コンクリートを破壊する悪循環となってしまいます。
また、ひび割れの発生により、アルカリ骨材反応や凍結融解、塩害などの他のリスクも高まります。
5. 中性化したコンクリートを元に戻す方法
中性化したコンクリートのアルカリ性を回復する技術として、断面修復工法 (部分断面修復工法,全断面修復工法など)と、再アルカリ化工法があります。
①断面修復方法
コンクリート中の鉄筋位置まで中性化が進行し鉄筋の腐食が開始している場合は、中性化した範囲のコンクリートをはつり取り、修復材を使用してはつり取った部分を修復します。これにより、中性化深さは元に戻ります。
②再アルカリ化工法
コンクリート中の鉄筋位置まで中性化が進行している場合、あるいは将来的に中性化の進行が鉄筋位置に到達すると予測される場合には、電気化学的な手法を用いて中性化したコンクリートにアルカリ性を再付与することができます。
再アルカリ化工法は、コンクリート表面に陽極材と電解質溶液を設置し、陽極からコンクリート中の鉄筋(陰極)へ直流電流を流すことにより、アルカリ性溶液をコンクリートに浸透させ、コンクリート本来のpH値程度まで回復させる方法です。
再アルカリ化工法によりコンクリートのpHが回復することで、鉄筋が腐食する環境が改善されます。かぶり部分のコンクリートが比較的健全な状態では、コンクリートをはつることなく中性化深さを元に戻すことができます。
再び二酸化炭素が侵入することを防止するためには、表面を保護する方法も併せて検討する必要があります。
6. まとめ
コンクリート構造物において中性化は避けられません。鉄筋が入っていないコンクリートについては中性化しても強度に問題を生じることはありませんが、鉄筋コンクリートについては中性化が進行すると部材として致命的な破壊をもたらしてしまう恐れがあります。重症化する前に処置をすれば問題なく使用できるので定期的にこまめな点検を行うことが重要といえるでしょう。