生コンクリートの製造には、様々な工程がありますが、実際にプラントを運転する生コンのオペレータには、高い目視能力と経験が要求されます。
オペレータは、プラントミキサ内の練り混ぜ状況を毎バッチ操作室モニターで目視により確認しています。その中で、生コンクリートの軟らかさの指標となるスランプの判定は熟練の技が必要となっています。経験の長いエンジニアの不足や労働生産人口の減少などの課題を解決する手段としてAI(人工知能)テクノロジーを活用し、安定した品質のコンクリートを供給する試みが始まっています。
この記事では、生コンクリートの製造工程におけるAI技術の開発状況やAI(人工知能)の歴史、今後のAI技術についてご紹介いたします。
この記事でわかること
1. コンクリートとAI技術
国内におけるコンクリート関連のAIは、使用目的によって様々な技術開発が行われ、実装されています。今までは、人間の目視主体で行われてきたコンクリートの品質管理やコンクリート構造物の点検などが、AI技術の開発により可能となりました。
1-1. 生コンクリート製造時の品質管理
コンクリート製造時での、人間による目視確認で特に重要なのが、品質管理項目の一つであるスランプです。この目視確認を画像認識データから、ミキサ内のコンクリート練り混ぜ時のスランプを予測する技術が開発されています。
画像データによるスランプ判定の技術基盤開発は、會澤高圧コンクリ―トが2018年にいち早く手掛け、太平洋セメントも2019年にAIの深層学習による画像認識を利用して、コンクリート練り混ぜ画像から、瞬時にスランプの予測を行う技術を確立しました。
この判定正解率は、実測スランプ値±2.5㎝以内の許容差で、99%以上ときわめて高い正解率を有しています。この技術が実装されれば、コンクリート品質の安定化や製造管理の合理化・省力化に寄与することが期待されています。
現在、国内で稼働している生コン製造工場で、生コンの品質管理に係るAI技術を実装するのは、會澤高圧コンクリート株式会社(本社:北海道苫小牧市)が初めてとなります。このAI技術は、深層学習を利用し複数工場のビックデータから、次の3つを掛け合わせることで、製造時のスランプ値を即座に判定するシステムになります。
1)生コン製造工程におけるミキサ内の練り混ぜ画像データを学習させる。
2)練り混ぜ後にコンクリートを一時的に貯留するホッパ内の画像データを学習させる。
3)コンクリート練り混ぜ中のミキサの音響データを学習させる。
この技術は、画像データが使用環境によって一部欠落しても、画像と音響の双方のデータを補完的に使用し安定的に判定を行えます。
また、学習する生コンの配合によっては、スランプの見え方が異なるため、普通コンクリート、高強度コンクリート、高流動コンクリートといった幅広い配合で実施しています。さらに、練り混ぜ量やミキサの種類を変え、複数の工場で継続して学習を実施しています。
画像データによる判定正解率に関しては、実測スランプ値±2.5㎝以内の許容差で、99%以上と高い正解率を達成しています。また、±1.0㎝の許容差においても80%を超える精度を記録しており、現在は±1.0㎝に対し85%以上となるよう精度向上に取り組んでいます。
図1.スランプ判定正解率推移(ミキサ画像)
音響データの判定正解率についても、実測スランプ値±2.5㎝以内の許容差で、94%以上と高い正解率を達成しています。
この判定能力は、生コンオペレータのスランプ目視能力を凌ぐ水準にまで到達しており、この技術が普及すれば、品質の更なる安定化と業務負荷の軽減に繋がることになります。
1-2. 生コンクリート荷卸し時の性状判定
鹿島建設は、コンクリート荷卸し時の性状判定を動画像分析により、トラックアジテータ車から連続で荷卸しされるコンクリートの性状を判定する技術を開発しています。
この開発システムは、市販のビデオカメラと分析システムで搭載したパソコン、パトランプ、ブザーといった簡易なツールで構成され、トラックアジテータ車のシュートから荷卸しされるコンクリートの勾配の時間変化を連続的にモニタリングし、動画像分析から施工性の悪いコンクリートを事前に排除し、ポンプ車の配管閉塞や豆板などの初期欠落を未然に防止します。
この映像や判定結果は、自動的にクラウドへ記録され、現場作業員がタブレットなどで確認できます。また、市販の連続RI水分計を組み合わせることで、強度や耐久性の連続的モニタリングも可能となります。
今後の展開は、コンクリート工事全ての工程をデータとして見える化するプラットフォーム「コンクリート・アイ」を構築し、打込み・締固め、打継面の処理、養生などの各工程におけるコンクリートの状態・施工管理の情報化技術の開発が進んでいます。
1-3. コンクリートのひび割れ検出
コンクリート構造物のひび割れ検出は、専門知識を持った技術者が近接目視により1本1本ひび割れを確認し記録しています。これは、構造物の規模により、数千、数万本になる時もあります。
この膨大な時間とコストを解決するために、キヤノンから、AIにより検知する技術が開発されています。技術プロセスは、一眼レフカメラやドローンを使用し点検構造物を高精細に撮影し、AIによりひび割れの幅を判定します。判定は、深層学習により誤検知することなく、実証実験では99.5%と高精度な検知結果が得られています。
また、大林組からもコンクリート構造物表面を特殊な高性能カメラによる撮影で、AIによる画像解析を行い、コンクリート表面のひび割れ幅と長さを自動検出する技術を開発しています。この技術の画像解析には、富士フイルムが提供する「社会インフラ画像診断サービス」が利用されています。
1-4. インフラ構造物の点検
インフラ構造物の点検では、トンネルや道路、橋梁、河川の護岸などがあります。道路や橋梁、河川の護岸に使用されているコンクリートの点検には、画像解析により劣化によるひび割れ幅などを判定します。上記に記述した通り多くの企業が開発に取り組んでいます。
また、トンネルの点検では、地質調査会社最大手の応用地質より、打音によるコンクリートの健全度を、打撃波形の違いから機械学習により自動的に判定し、その判定結果をリアルタイムにスマートフォンで確認できる技術を開発しています。
インフラ構造物の点検は、技術者により判断基準が異なる場合があります。AI技術を活用すれば、安全はもとより時間やコストの基準の他に正確な判断を行うことができます。
2. AI(人工知能)の歴史
近年、急速にAI技術は進化をし、より身近な存在となっています。そして、普段の生活の中でも気付かないうちに私たちはAIと接しています。AIの研究は、1950年代からと歴史は長く、ブームと冬の時代を交互に繰り返し、現在は第三次AIブームと言われています。
2-1. 第一次AIブーム
1950年代から始まった研究は、1960年代には「探索と推論」による第一次AIブームが起こります。これは、迷路へのゴールを導いたり、パズルやゲームを解いたりすることが可能となり、人間を超えるAIの完成が期待されました。
しかし、明確なルールが定義されている単純な仮説を解くことはできても、当時のコンピューターでは処理能力が不足しており、様々な要因が複雑に絡み合っている現実社会の問題を解くことができないと判明し、冬の時代を迎えてしまいます。
2-2. 第二次AIブーム
1980年代に入り、職場や家庭にもコンピューターが普及したことにより第二次AIブームの時代が到来します。第二次では「エキスパートシステム」という仕組みが登場し、その分野の専門家の知識を教え込んで保存することで、AIが専門家のように振る舞い、現実の複雑な問題を解くことが可能となりました。
しかし、当時はコンピューターが自ら必要な情報を収集することができず、人間が手作業で膨大な情報を入力する必要がありました。その作業の限界から1995年頃には再び冬の時代に突入します。
2-3. 第三次AIブーム
現在は、第三次AIブームを迎えていると言われています。2000年代に入り、コンピューターが「ビッグデータ」と呼ばれる膨大なデータを用い学習することで、AIが自ら知識を得ていく技術、「機械学習」が開発されました。その機械学習が発展したのが、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか、「深層学習」(ディープラーニング)です。
機械学習は、データの中のどの要素が影響を及ぼしているのか(特徴量)を「人間が手動で入力する」ため、限定的なデータを用いる場合に使用されるのに対し、深層学習は「コンピューターが自動で学習する」複雑なデータが必要な場合に用いられます。
3. 今後のAI技術
生コン製造に求められるAIの技術開発は、今後も進められていきます。會澤高圧コンクリートは、プラントの制御を繰り返す自律型次世代生コンエンジニアリングシステムの開発を進めています。
これは、生コン製造時のバッチャープラントの計量や生コンを納入現場まで輸送するトラックアジテータ車等に独自開発のAI技術やIoTを実装し、製造から現場荷卸し時、さらには硬化後の品質までも瞬時に予測することで、製造の自動化が可能となります。また、同様に日常業務の負荷を軽減するためにも、バッチャープラントのメンテナンスに関するAI技術やIoTシステムによる開発が必要だと考えられます。
4. まとめ
AIを導入することによって、人間の仕事を「奪ってしまう」と思っている方は少なからずいるでしょう。実際に車の自動運転は開発が進み、現在の運転をサポートする役割から近い将来無人で走行しているトラックやタクシーなどを見かける日が来るでしょう。さらには、コンビニなどの店舗も無人化となり、私たちの生活はAIの開発とともに激変するのではないでしょうか。
しかし、ポジティブに考えると労働生産人口の減少による働き手不足を間違いなく補ってくれる技術です。AIの導入により、業務が効率化されることで、業務の負荷を軽減し、生産効率が大幅に向上することで生産性の向上に繋がります。
AI技術が発展しても人間にしかできない仕事は必ず残ります。AIとの共存共栄の社会はもうすでに始まっています。AIを生むのは人間です。様々な業務にAIをどう生かすか私達もアップデートをしていかなければなりません。