コンクリートは、主要材料であるセメントの水和反応により強度が発現し、骨材との繋ぎを形成します。水和反応はセメントと水の反応ですが、水分が不足すると十分な反応が行われず、強度が期待するほど発現しないことがあります。
そのため、コンクリートの品質を確保するには、コンクリート打ち込み後に十分な水を与え、コンクリートの硬化と強度発現を促す「養生」が極めて重要なのです。
ここでは、コンクリートの品質を左右する養生の目的とその方法について解説します。
この記事でわかること
1. コンクリートの養生とは
コンクリートの養生とは「コンクリートの強度、耐久性、ひび割れ抵抗性、水密性、鋼材を保護する性能などの所要の品質を確保するため、打込み後の一定期間を硬化に必要な温度および湿度に保ち、有害な作用の影響を受けないように保護する作業」と土木学会刊行のコンクリート標準示方書では定義されています。
つまり、コンクリート養生には、①水分を与える、②水分が逸散するのを防ぐ、③適切な温度を保つ、④外部からの力に耐えることができる強度を得るまで、振動や衝撃、荷重などの有害な作用から保護することが求められます。
2. コンクリート養生方法の全種類
コンクリートの養生方法にはさまざまな種類があります。
ここでは湿潤養生、保水養生、保温養生、吸熱養生、冷却養生とコンクリート二次製品の促進養生の6つに分けて解説します。
それぞれ乾燥防止、保温、温度ひび割れの防止、強度発現促進等と目的が異なりますので、構造物の種類や施工条件、立地、気温・湿度、周りの環境などの状況に応じて適切な養生を行うことが重要です。
2-1. 湿潤養生
湿潤養生の目的は乾燥を防止することです。打設後のコンクリートに水分を供給して強度の発現を促します。
コンクリートの表面が急速に乾燥すると、コンクリートの内部から水が引き出され、十分な水和反応が得られなくなります。また、乾燥は表面のひび割れの原因にもなります。
コンクリート打設後は、十分な水分を与え、直射日光や風による水分の逸散を防ぐ湿潤養生が必要となります。
2-1-1. 湿潤養生の種類
養生方法 |
方法と注意点 |
---|---|
水中養生 |
標準養生ともいう。 コンクリートの強度試験用供試体のテストピースを、20±3℃に保った水中、または湿度100%に近い湿潤状態で行う方法。 空気中で養生するよりも温度変化が小さく、精度が高い。 |
湛水養生 |
周囲の型枠をあらかじめ高くし、コンクリートの表面に2~3cmの水を張る。 非常に養生効果が高い。 冬季凍結の恐れがある場合は、水深を深くする。 |
散水養生 |
コンクリート表面に散水を行う。 気象条件によって乾燥の度合いが変わるため、効果がムラになりやすい。 スプリンクラー等を使用して自動的に常時散水すると良い。 |
湿布養生 |
十分に散水後、コンクリート表面に密着するようシートやマット等で覆い、水分の蒸発を防ぐ。 状況に応じて1日1回以上散水する。散水が不足すると、かえって覆いがコンクリートの水分を吸収するので注意する。 |
湿砂養生 |
湿った砂でコンクリート表面を覆い、乾燥を防ぐ。 |
噴霧養生 |
噴霧器ノズルから微細な霧状の水滴を噴霧することにより乾燥を防止し、コンクリート表面を湿潤状態に保つ。 トンネル内などのアーチ型側面でも有効。 |
2-1-2. 湿潤養生期間
コンクリート標準示方書とJASS5では、次の表のようにセメントの種類と日平均気温又は構造物の設計耐用年数(計画共用期間)に応じて、湿潤養生期間が定められており、この期間はコンクリートを湿潤状態に保つことが規定されています。
①土木学会 コンクリート標準示方書
日平均気温 | 普通セメント | 混合セメントB種 | 早強ポルトランドセメント |
---|---|---|---|
15℃以上 | 5日 | 7日 | 3日 |
10℃以上 | 7日 | 9日 | 4日 |
5℃以上 | 9日 | 12日 | 5日 |
②日本建築学会 JASS5
セメントの種類 | 計画共用期間の級 | |
---|---|---|
短期及び標準 | 長期および超長期 | |
早強ポルトランドセメント | 3日以上 | 5日以上 |
普通ポルトランドセメント | 5日以上 | 7日以上 |
中庸熱および低熱ポルトランドセメント、高炉セメントB種、
フライアッシュセメントB種 |
7日以上 | 10日以上 |
2-2. 保水養生
セメントの水和に必要な水分を保持するためにコンクリート表面を膜やシートで覆い、水分の蒸発を抑制する方法です。
2-2-1. 保水養生の種類
養生方法 |
方法と注意点 |
---|---|
膜養生 |
コンクリートの表面仕上げ後、できるだけ早く皮膜養生剤を散布または塗布し、水分の蒸発を防ぐ。 初期の乾燥防止には有効。 気温が高いと養生効果が減退する。 |
シート養生 |
コンクリート表面を不透水性シートで覆う。 養生水が得られない場合や、養生作業の効率を上げる場合に用いる。 シート継ぎ目を重ね合わせて隙間を無くし、風に飛ばさないないよう注意する。 気温が高いと養生効果が減退する。 |
2-3. 保温断熱養生
主に寒中コンクリートにおいて初期凍害の防止を目的とし、水和熱によってコンクリートの温度を保ち養生する方法です。原則、加熱は行いません。
2-3-1. 保温断熱養生の種類
養生方法 | 方法と注意点 |
---|---|
保温養生 (ほおんようじょう) |
コンクリート露出面、開口部、型枠の外側をシート類で覆う。
気温が著しく低い場合は、適温に保つことは不可能。 |
断熱養生 (だんねつようじょう) |
コンクリート表面に断熱材を敷いたり、断熱材付の型枠を使用する。
外気温が0℃以上で、ある程度部材の寸法が大きい場合に有効。 |
2-4. 給熱(加熱)養生
主に寒中コンクリートにおいて初期凍害の防止を目的とします。保温のみでは凍結温度以上の適温に保つことが不可能な場合に過熱します。
ジェットヒーター、石油ストーブ、アイランプ、蒸気などさまざまな加熱方法があります。
2-4-1. 給熱養生の種類
養生方法 |
方法と注意点 |
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吸熱養生 |
コンクリート露出面開口部、型枠の外側をシート類で覆い、構造物の内部を加熱する。 |
構造物の周囲を全部シート類で覆う。加熱して構造物の回りの気温を所定の温度に保ち、その中で施工する。 |
2-5. 冷却養生
主にマスコンクリート(質量や体積の大きいコンクリート。ダムや橋桁など)で、水和熱によるコンクリートの膨張やひび割れを防止するために行う方法です。
2-5-1. 冷却養生の種類
養生方法 |
方法と注意点 |
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プレクーリング |
コンクリート材料の一部または全部をあらかじめ冷却し、コンクリートの打込み温度を下げて施工する方法。 |
ポストクーリング |
コンクリート打込み後に、コンクリートの温度上昇を人工的に抑制させる方法。 |
2-6. 促進養生
主にプレキャスト部材や二次製品の作成時に用います。
コンクリートの凝結・硬化、強度発現を促進するためにコンクリートを加熱する養生方法です。早い段階でコンクリートを硬化するので、工事のサイクルを早めたい場合や、生産性向上を目的に使用されます。
2-6-1. 促進養生の種類
養生方法 |
方法と注意点 |
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蒸気養生 |
常圧蒸気養生ともいう。 ボイラーで発生させた水蒸気により高い温度と湿度を供給し、強度発現を促進させる。 ダクトで任意の場所に蒸気の供給が可能。 |
高温高圧養生 |
高温・高圧の蒸気がま(オートクレーブ)の中で、常圧より高い圧力下で高温の水蒸気を用いて行う方法。 180~190℃、10~11気圧を所定時間(3~5時間)保持することで、強度発現を促進させ、コンクリート製造の翌日には28日強度程度を得ることができる。 |
2-7. その他
養生方法 |
方法と注意点 |
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封緘養生 |
主にコンクリートの強度試験用供試体をビニール袋などで密封し、コンクリートの表面から水分の逸散がない状態に保つ方法。 構造体内部の強度を推定するのに用いる。 |
3. コンクリートの養生に失敗したらどうなるか
3-1. 耐久性の低下
表面からの乾燥によって内部の水分が逸散すると、セメントの水和反応が十分に行われなくなり、硬化不良や強度不足が発生する恐れがあります。結果、コンクリートの耐久性が低下するなど品質にも影響します。
3-2. 温度ひび割れの発生
セメントと水の水和反応が起こると水和熱が発生し、コンクリートの温度が上昇します。構造物の大きさによっては内部は100℃に達することもあります。
温度上昇による膨張と、温度降下による収縮で体積変化が起こります。外気に冷やされる表面部分は引張応力が増加し、コンクリートの引張強度以上となると温度ひび割れが発生します。
湿潤養生では、散水により温度が下がりひび割れが発生することもありますので、水分の供給だけではなく、温度の影響も考慮することが大切です。
3-3. 寒冷地での凍害
水が凍結して氷になると体積は9%位膨張しますが、コンクリートの硬化過程で水分の凍結・融解作用を受けると強度低下やひび割れ、破損を起こします。この現象を「初期凍害」と言います。
コンクリート打設後の初期材齢で一度でも凍結すると、コンクリートは初期凍害を受け、その後適切な温度で養生を行っても、強度・耐久性が低下しますので、寒冷地では温度管理に特に注意が必要です。
4. まとめ
ここまでコンクリートの一般的な養生方法について紹介してきましたが、コンクリートのメカニズムはまだ解明されていないことも多く、研究開発は日々進化しています。
近年も、大手ゼネコンをはじめ、さまざまな企業や研究機関から保水や給水に関わる新規養生方法や新工法などの提案が数々なされていますので、ぜひ最新情報に注目してください。