私たちの暮らしに必要なインフラストラクチャーの主要な材料として、コンクリートは欠かすことができません。そして、コンクリート構造物を設計する場合、コンクリートの強度特性が非常に重要となります。
コンクリート強度には圧縮強度、引張強度、曲げ強度、せん断強度そして支圧強度等、様々な特性がありますが、これら全ての強度は、N/mm2(ニュートン毎平方ミリメートル)というSI(エスアイ)単位で表します。
SIとは、フランス語の”Le Système International d’ Unités”の頭文字をとったもので、和訳すれば「国際単位系」といった意味になります。
平成4年5月20日に計量法が改正され、コンクリート関連の全てのJISも重力単位系から国際的に合意されたSI単位に完全に移行されました。
ここでは、コンクリートに関係する力学関連の計量単位について説明します。
この記事でわかること
1. コンクリートの強度の単位
強度(強さ)とは、ある定められた条件のもとで材料が示す抵抗の度合いを指し、通常は応力(応力度)の値で比較します。応力とは、物体に作用する力の大きさを単位断面積当たりに作用する大きさで表し、σで表記します。従って、作用する力(荷重)をP、物体の断面積をAとすれば、応力はσ=P/Aで求めることができます。
強度の単位は応力と同じなので、重力単位系ではkgf/cm2、SI単位系ではN/mm2となります。
コンクリート強度の単位 |
|
重力単位系 | kgf/cm2 |
SI単位系 | N/mm2 |
また、SI単位系では強度の単位として、圧力の単位であるMPa(メガパスカル)を使用することもできます。この場合、1N/mm2と1MPaは同じ大きさです。
主要各国のコンクリート強度の単位を調査すると、日本、イギリス、ドイツではN/mm2を、アメリカ、フランス、中国はMPaを使用しているようです。
主要国のコンクリート強度の単位
単位 | 国名 |
---|---|
N/mm2 | 日本、イギリス、ドイツ |
MPa | アメリカ、フランス、中国 |
コンクリート強度の特性で最も一般的な「圧縮強度」
コンクリート強度には、圧縮強度、引張強度、曲げ強度、せん断強度そして支圧強度等、様々な特性があります。この中で、最も一般的な指標は圧縮強度です。
圧縮強度とは:
コンクリートが圧縮力(荷重)を受けて破壊するときの強さを応力(N/mm2)で表した値
では、圧縮強度はどのような試験をして求めるのでしょうか?
圧縮強度試験の概要
圧縮強度は、耐圧試験機を使用してコンクリート供試体に荷重を加え、供試体が破壊するときの最大荷重(N)を供試体の断面積(mm2)で除して求めます。
例として、円柱供試体の寸法が直径10cm×高さ20cm、最大(破壊)荷重が300kNの場合の圧縮強度を計算してみました。
ここに、fc:圧縮強度(N/mm2)
P:最大荷重 (N)
d:円柱供試体の直径(mm)
現在、コンクリートの強度は完全にSI単位化されており、工学系の人達においては計算結果のfc=38.2(N/mm2)という強度は、違和感無くイメージできると思います。しかし、重力単位系で長くお仕事をされていた方や一般の方においては、kgfやtfで考えたほうがイメージしやすいのは確かです。
イメージしにくい方は、計算で得られた圧縮強度fc=38.2(N/mm2)について、重力単位に戻してみましょう。そうすると、fc=3,890(tf/m2)となり、1m2に3,890tfの力が作用するときに破壊することと同じになるので、イメージしやすくなります。
fc=38.2(N/mm2)
=3.89(kgf/mm2) ←1 kgf = 9.81 Nの関係から
=389(kgf/cm2)
=0.389(tf/cm2)
=3,890(tf/m2)
また、圧縮強度については「コンクリートの圧縮強度試験について」こちらで詳細の解説をしております。
2. コンクリート強度の基準
コンクリート構造物の構造設計において基準とするコンクリートの圧縮強度のことを設計基準強度といいます。この設計基準強度は、構造体コンクリートが満足しなければならない強度のことであり、一般のコンクリートに使用される設計基準強度は、18、21、24、27、30、33、36N/mm2を標準としています。
設計基準強度は、コンクリートに要求される最も基本的な性能の1つであり、コンクリートの総合的な品質と密接に関係をしています。また、設計基準強度は構造設計で基準としたコンクリートの圧縮強度として記されますが、同じ建物でも基礎や床・壁などの使用する部分で設計基準強度の値が異なることがあります。
建築分野では、設計基準強度とは別に耐久設計基準強度があります。この耐久設計基準強度は、構造体の計画共用期間の級に応ずる耐久性を確保するために必要とする圧縮強度の基準値が定められています。
計画共用期間は、「短期」「標準」「長期」「超長期」の4つの級に分かれており、それぞれの耐久設計基準強度は、短期で18N/mm2、標準で24N/mm2、長期で30N/mm2、超長期で36N/mm2となっています。
計画共用期間 | 耐久設計基準強度 |
---|---|
短期 | 18N/mm2 |
標準 | 24N/mm2 |
長期 | 30N/mm2 |
超長期 | 36N/mm2 |
計画共用期間は、構造体や部材を大規模な修繕をすることなく共用できる期間、または継続して共用するにあたり大規模な修繕が必要となる事が予想される期間を考慮して建築主または設計者が設定します。
- 短期:大規模な修繕を必要としない期間がおおよそ30年程度の鉄筋コンクリート造
- 標準:大規模な修繕を必要としない期間がおおよそ65年程度及びおおよそ100年程度で比較的高品質の鉄筋コンクリート造
- 長期:おおよそ100年程度は、全体としての鉄筋の腐食が生じないと考えられるものであり、非常に品質の高い高耐久な鉄筋コンクリート造
- 超長期:100年を超える耐久性を有すると考えられる仕様の鉄筋コンクリート造
3. コンクリート設計に使用する力学単位
コンクリートの設計で使用する力学単位について、重力単位系とSI単位系の比較表を以下に示します。
重力単位系 | SI単位系 | |
質量 | kg(キログラム) | kg(キログラム) |
重量 | kgf (キログラム重) | N(ニュートン) |
力 | ||
圧力(強度) | kgf/cm2(キログラム重毎平方センチメートル) | N/mm2(ニュートン毎平方ミリメートル) |
計量法の改正(平成4年)により、平成11年10月から「力」や「応力(強度)」等の力学関連の単位は、全てSI単位系に移行されました。日本では、それまで長い間重力単位系(工学単位系)が使われていたため、戸惑いを隠せない人も多かったものと思います。
それでは、何故SI単位に移行されたのでしょうか。
日本においては、1959年(昭和34年)からメートル単位系の使用が計量法で義務付けられ、尺貫法からメートル単位系に変わりました。これは、1960年の第11回国際度量衡総会において、世界共通の実用的な計量単位として国際単位系を使用することが決議されることに対応した国際化への措置でした。
世界各国のSI化は、メートル単位系の提唱国であるフランスはもとより、ヨーロッパ諸国において、EC統合に合わせて多くの国で実施され、近隣のアジア・太平洋地域においても積極的にSIが計量単位として導入されました。古くからのヤード・ポンド単位系使用国のアメリカにおいても、積極的なSI化が推進されつつあります。
こうした経緯で、日本においても重力単位系を排除して、一量一単位を理想とする絶対単位系に統一することを目的に、これまでの計量法を1992年(平成4年)に大改正し、国際的に合意されたSI単位を全面的に採用し、新計量法(法律名は現在も計量法)として公布されるに至りました。
3-1. 質量の単位
質量とは物体そのものが保有している量のことで、セメント1g、コンクリート1kgなど重力単位系とSI単位系で同じ単位となります。質量は物体がもともと持っている量であるため、その物体が地球上や月、もしくは水中にあっても質量は同じです。
3-2. 重量の単位
地球には重力(万有引力)が作用しており、その重力の大きさを重量といい kgf (キログラム重)で表記します。kgfの” f ”とは、force(フォース:力)のfを表しており、重量1 kgfは、質量1kgの物体が重力加速度1G(9.81 m/sec2)で加速されたときに生じる力で、重力単位系で使用していた単位となります。したがって、重量は力なので、SI単位系ではN(ニュートン)で表記することになります。
現在のSI単位系では、重量は力のことを意味するので、質量とは全く違うものと理解する必要があります。
まだ混乱している人も多いかと思いますので、再度記します。
- 質量は何処へ行っても不変の量。(単位はキログラム(kg)、トン(t)など)
- 重量は万有引力で生じる重力のこと。重力は力を示すので、質量×重力加速度が重量となる。(単位はニュートン(N)、キロニュートン(kN))
ところで、私たちが日ごろ使用している体重計の単位表記を見てください。たぶん、kgとなっています。体重計は人の重さ、重量という力の大きさを計っているので、やはりkg表示ではなく、kgfまたはNと表記すべきではないでしょうか。
しかし、kgであってもkgfであっても体重計が示す数値は同じという理由から、わざわざキログラム(kg)をキログラム重(kgf)と呼ぶのは面倒なこと、そして生活していく上で何も問題にならないことから現在も続いているものと思われます。
体重計の単位をニュートン(N)表記できない理由はまだあります。今まで50kgの体重の女性がSI単位の体重計に乗ると10倍近い500Nとなってしまうので、女性としてはそんな体重計の購買意欲が無くなってしまう恐れがあります。体重計メーカーにとっては死活問題になる可能性があることもニュートン(N)表記の体重計が世に出回らない理由の一つでしょう。
ただし体重計は特異な例で、電化製品等のカタログを見てみるとSI化が進んでいることがわかります。
例えばテレビのカタログを見てみましょう。SI単位系の移行前までは「テレビの重量:10kg」という表現が、移行後には「テレビの質量:10kg」と正確に表示されています。
今でも曖昧に使われている「重量」表記には十分注意をする必要があります。それが「質量」なのか「重さ(力)」なのか、この辺を意識して対処すれば、過ちは少なくなるでしょう。
3-3. 力の単位
力の単位は、重力単位系ではkgf(キログラム重)を使用していましたが、SI単位系でN(ニュートン)に統一されました。ここで1 Nは、1 kgの質量の物体が加速度1 m/sec2で加速されたときに生じる力をいいます。
N(ニュートン)という単位は、日常であまり使うことがないため、力としてのイメージがしづらいと感じている方は、重力単位系の力の単位kgfとの単位変換をしてみてください。
SI単位系 1 N = 質量1 kg × 加速度1 m/sec2
上記の式から、1 kgf = 9.81 N が得られます。重力加速度9.81 m/sec2は有効数字3桁の場合で、正確には1kgf=9.80665 m/sec2です。
原則、必要に応じた有効数字の桁数で換算すると下記の数値となります。
正確な換算の場合 1kgf=9.80665m/sec2
有効数字が4桁の場合 1kgf=9.807m/sec2
有効数字が3桁の場合 1kgf=9.81m/sec2
有効数字が2桁の場合 1kgf=9.8m/sec2
有効数字が1桁の場合 1kgf=10m/sec2
つまり、kgf はNの約10倍(Nはkgfの約1/10)と覚えておくと良いでしょう。
7. 最後に
コンクリートの強度は、作用する力(荷重)を物体の断面積で除して求め、単位はSI単位系のN/mm2で表すことを説明しました。今回、コンクリートの圧縮強度の計算方法を例として説明しましたが、その他の強度特性である引張強度、曲げ強度、せん断強度そして支圧強度等の試験方法や計算方法を詳しく知りたい方は、「硬化コンクリートの強度特性と試験方法」こちらの記事を参考にしてください。
また、コンクリートの強度の単位は、重力単位系ではkgf/cm2であったため、SI単位への移行時期には戸惑った人もいるでしょう。現在でもインターネットで「SI単位変換」と検索すると、多くのサイトがヒットします。これは、まだまだ戸惑っている人が多いことを意味しているものと思われます。自信のない方はそちらを利用することをお勧めします。