コンクリート構造物を設計する際、コンクリートの引張強度はゼロと考えます。コンクリートは圧縮側で構造計算され、引張側は鉄筋でもたせると考えます。よって、コンクリートと鉄筋(鋼材)はセットなのです。よって、鉄筋が腐食してその強度が低下するとコンクリート構造物には決定的ダメージが発生するのです。
ここでは、その鋼材の腐食と、そのために起こるいろいろな問題を述べてゆきます。
この記事でわかること
1. 何故鉄は錆びるのか?
皆さんホッカイロはよく使いますね。手でもむと熱を発生します。中には鉄粉が入っています。鉄は水と結びついて熱を発生します。しかし金粉は水と混ぜても熱を発生しません。これを原子核から電子が飛び出すエネルギーの強さ、イオン化傾向と言います。
鉄の原子核から電子2e-が遊離し、周辺にある水や酸素と結びつき、それが電子を無くした鉄と結びつく。酸化と還元が同時に起こり、水酸化第一鉄(錆び)を作ります。
2. どうすれば錆を防げるか?
上記で述べたように,
- 鉄から電子が飛び出さないようにする
- 水を奪う
- 酸素を奪う
このどれかひとつを行なえば錆は防げるのです。
コンクリートに用いる鉄筋を見てみると、表面は少し黒いですね。これは電炉で鉄筋を作る際に最終焼き入れで表面に酸化被膜を作り、空気中でもイオンが外に飛び出さないように加工しているのです。
しかし、輸送中や現場での移動や加工作業で表面に傷がつき、ところどころ錆が発生しています。その後、コンクリートの中に入ってしまうと、コンクリートから出るアルカリで表面に不導体膜(酸化被膜)が作られ、錆から鉄筋を守ってくれます。
一度コンクリートの中に入った鉄筋も、その後コンクリートにひび割れが発生すると、鉄の大敵である空気と水が浸入してきます。ひび割れで鉄周辺のアルカリも溶出しpHは下がってきます。そうすると2.1.で説明した事が鉄筋に起こるのです。
3. 鉄筋がさびるとコンクリートはどうなるか?
最初にできた錆の卵(水酸化第一鉄)は、溶存酸素と結びついて水酸化第二鉄になり、さらに水分を失って赤錆(水和酸化鉄、または三酸化二鉄)に、酸素の不足した一部は黒錆(四酸化第三鉄)となり鉄筋の表面に積層し錆の層を作ります。錆の層は多孔質で、その隙間に水や空気をたっぷり含むため、鉄筋内部へと腐食は進行して行きます。
錆びた鉄は、その容積を2.5倍に膨張させ、その膨張圧力でコンクリートのひび割れを押し広げてゆきます。最終的に錆び汁がコンクリート表面に出て来て、鉄筋の補強性能を著しく低下させ、構造体の耐力に大きな影響を及ぼしてゆきます。以下の写真を見て下さい。
3-1 錆による劣化の進行過程
鉄筋の腐食はひび割れの発生がなければ起きないのではありません。鉄筋周辺のコンクリートのpHが11以下になると錆の発生リスクが高まります。また、コンクリートは海辺や融雪材(塩)は撒かれる道路や橋でも使われます。鉄は塩に弱いという事は共通の認識です。ここで鉄筋の錆による劣化の進行過程を考えてみましょう。
3-2 塩害による劣化進行過程
塩害による劣化進行過程を表1に示すように四段階に分けることが出来ます。各劣化期間は、構造物の状態に対応していることから、劣化進行予測は基本的にその期間の長さを予測することが基本です。期間を決定する要因に基づいて定期的な点検を行う事が大切です。
劣化過程 |
定義 |
期間を決定する要因 |
潜伏期 |
鋼材のかぶり位置の塩化物イオン量が1.2㎏/m3に達するまでの期間 |
塩素イオン量の拡散 |
初期含有塩素イオン濃度 |
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進展期 |
鋼材の腐食開始から腐食ひび割れ発生までの期間 |
鋼材の腐食速度 |
加速期 |
腐食ひび割れにより腐食速度が増大する期間 |
ひび割れを有する場合の鋼材の腐食速度 |
劣化期 |
腐食量の増加により耐荷力の低下が顕著になる期間 |
表1:塩害における各劣化期間の定義
塩害による鉄筋腐食の実例写真を以下に示します。
3-3 鉄筋コンクリートの中性化による劣化進行過程
中性化または炭酸化とは、硬化したコンクリートが空気中の炭酸ガスや水中でのCa(OH)2の溶出などの影響を受け、徐々にアルカリ性が低下して行く現象です。中性化による強度低下は問題ではなく、コンクリート内部の鋼材・鉄筋の腐食が問題となるのです。
鉄筋は、コンクリートのpHが11以下になると、鉄筋の腐食リスクは高まります。pHが低くなると、鉄筋表面の不働態被膜が破壊され、水、空気が存在すると鉄筋に腐食が進行します。表2では中性化による劣化進行過程を四段階に分けて説明します。
劣化過程 |
定義 |
期間を決定する要因 |
潜伏期 |
中性化深さが鋼材腐食限界に達するまでの期間 | 中性化進行速度 |
進展期 |
鋼材の腐食機関から腐食ひび割れが発生する期間 | 鋼材の腐食速度 |
加速期 |
腐食ひび割れにより腐食速度が加速する期間 | ひび割れを有する場合の鋼材の腐食速度 |
劣化期 |
腐食量の増加により耐荷力の低下が顕著になる期間 |
表2:中性化における各劣化期間の定義
中性化による鉄筋腐食の実例を以下に示します。
4. 鉄筋腐食によるひび割れ対策
ここからは、鉄筋腐食によるひび割れに対してどの様な対策があるのかを記載していきます。
補修の工法は大きく、①劣化因子の遮断、②劣化因子の除去、③鉄筋腐食の抑制の3つに分けることができます。
①劣化因子の遮断
コンクリート表面がまだ健全であっても塩害や中性化に厳しい環境状況の場合、事前に予防することで、構造物の寿命を大幅に改善することが可能です。
塩害や中性化への劣化要因の遮断には、シラン系撥水材やケイ酸ナトリウム系の溶液をハケやローラーによって塗布、含浸させる「表面含浸工法」などがあります。
また、有機系や無機系の材料をコンクリート表面に塗布する「表面被覆工法」も、有効な手段です。
コンクリートにすでにひび割れが発生した初期段階では、ひび割れにセメント系、ポリマーセメント系、樹脂系などを注入する「ひび割れ注入工法」が有効です。
②劣化因子の除去
コンクリート中に劣化因子の一つである塩化物イオン、水、酸素などが侵入し鉄筋腐食が発生している様な場合、早急に劣化因子である塩化物イオンの除去が必要となります。
鉄筋部分背面が露出するまではつりを行い、ポリマーセメントモルタルに鉄筋防食材である亜硝酸リチウムを混入させ、はつり断面を修復する「断面修復工法」や塩害に対しては、コンクリート表面に外部電極を設置し、コンクリート中の鋼材に直流電流を流し脱塩を行う「脱塩工法」などがあります。
これは、塩化物イオンを外部電極側へ電気泳動させて取り除く工法で、コンクリート自体にダメージを与えることなく塩化物イオンのみを除去できる為、重要構造物には有効な工法といえます。
中性化の進行によりPHの低下したコンクリートのアルカリ度を回復させるのには、「再アルカリ化工法」があります。
これは、コンクリートの表面にアルカリ溶液と電極を仮設し、内部の鉄筋に電流を14日間通電することで、アルカリ溶液を鉄筋の周辺まで電気浸透させる工法です。
③鉄筋腐食の抑制
すでに腐食が開始した鉄筋の腐食進行を抑制するには、脱塩工法と同じ工法による「電気防食工法」があります。
この工法を使うことで、防食電流が流れている期間の腐食進行は無いのですが、共用期間中は防食電流を流し続ける必要があります。
その他の工法には「亜硝酸リチウムによる鉄筋防塵」があります。
亜硝酸リチウムには鉄筋腐食抑制効果があり、使用方法としてひび割れ注入材と併用や、表面被覆材や断面修復材に混入、内部への注入等、用途によって製品が異なりますので、詳細については以下を参照下さい。
一般社団法人コンクリートメンテナンス協会「カタログダウンロード」
5.まとめ
引っ張り強度に弱いコンクリートの弱点を補っている鋼材(鉄筋)は、構造物にとって非常に重要な役割を果たしています。
この鉄筋が外部からの劣化因子により錆が発生、腐食していくことは構造物にとって致命的なダメージとなってしまいます。
しかし、まだコンクリートが健全な間に劣化因子を遮断する。 もし劣化因子が内部に侵入してしまった場合は除去する。 すでに鉄筋腐食が始まってしまっている場合は抑制する等、あらたに手を加えることで構造物の寿命を格段に延長することが可能となります。
まずは、どの様な因子によって鉄筋の錆が発生しているのか、劣化の過程はどの位置か等を十分に調査し、補修工法計画を立てることが重要です。