モルタルやコンクリートは、私たちは日頃その恩恵をうけ、身近でよく見かけると思います。しかし、その材料のひとつであるセメントは、一体な何なのか?という事はあまり考えたことはないと思います。ここでは、セメントとはいったい何者なのか?を少し説明と思います。
この記事でわかること
1. セメントの定義
セメントとは「水硬性結合材」いい、水と反応して硬化し、それと同時に水に対して溶け出さないという耐水性を有します。たとえば焼石膏は水と反応して硬化するが、再度水に接触すると溶け出します。逆に水に対して比較的安定な石灰は、炭酸ガスとの結合であるため水硬性結合材とは呼べません。
セメントの最も重要な基礎物質は、石灰、珪酸、アルミナ、そして酸化第二鉄です。その基礎成分を取り上げ、その成分からなる化合物についてそれぞれの役割を述べ、どのようにしてセメントが生産されるかを以下に述べます。
2. セメントの原料になるもの
2-1. 石灰石原料
セメント原料である石灰岩は、2種類の起源があるとされています。ひとつは、太古の昔、微生物の死骸が堆積し長い時間をかけて石灰岩を作ったとするもの、もう一つは水から炭酸カルシウムが化学的に沈殿し石灰岩を作ったとされるものです。前者は化石を含み、後者には化石を含みません。石灰の化学式はCaCO3です。石灰岩は長い時間をかけて地球上の二酸化炭素をその中に閉じ込めてくれたのです。
この石灰岩を910℃以上の高温で焼く(焼成と言います。実際には1300℃以上の高温で焼成します。)と多量のCO2が排出されます。1㎏の石灰石を焼成すると理論上は0.44㎏の二酸化炭素を空気中に放出します。という事は100の石灰原料からセメントの材料として活用されるのは56でしかないのです。よって、すべてのセメント工場は石灰岩のある場所に立地しているのです。
この焼成過程で、炭酸カルシウムは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄などと結合してセメントクリンカーとなります。こうしたセメント原料についても以下に述べてゆきます。
2-2. 粘土原料
粘土というと皆さん小中学校などで美術の時間に塑造用粘土(油粘土、土粘土)を連想されると思います。油粘土は油脂を人工的に加えたものですが、土粘土は、多少石英や長石を加えて高温で焼けば磁器になり、そのまま比較的低温で焼けば陶器になります。
セメントの粘度原料とは、皆さんが連想したこの粘土です。この粘土の主成分である酸化ケイ素と酸化アルミニウム(アルミナ)がセメントには必要不可欠な材料なのです。一般的には、粘土、頁岩、泥(川底をさらえた)、粘板岩、ロームなどが使われます。これらの粘土も酸化第二鉄、マグネシア(酸化マグネシウム)や酸化カリウムなどの含有量によって、カオリナイト族、モンモリロナイト族、イライト族に分類され、セメント原料としては、モンモリロナイト族が最も利用されます。要するにケイ酸分が60-70%の粘土原料に調整して用いられます。
2-3. ケイ酸質原料
セメントが可使時間や固まる速度の調整が必要です。よって粘土原料中のアルミナが増える事はこうした調整が難しくなります。粘土の成分は、酸化ケイ素よりアルミナを多く含んだものが多いので、その調整のために、軟珪石、軽珪石、珪石、チャート、砂岩などのケイ酸質原料を添加して調整します。
2-4. 酸化鉄原料
粘土原料にも酸化鉄は含まれるが、それ自体では足りないので硫化鉄焼滓(硫酸製造後の残留物)、銅スラグ(銅精錬した後の残留物)、こうした始末に困る廃棄物が利用されています。ではいったい何故鉄原料が必要なのでしょうか?これは焼成過程で重要な役割を果たしています。 焼成過程で、各材料が化学的結合を容易にする溶融材としての働きをしているのです。また、セメントの色がセメント色なのも鉄によるものです。白セメントには鉄原料が用いられていません。
2-5. 石膏
石膏は、焼成が終わったクリンカーに少量添加されて一緒に粉砕されます。石膏は、天然石膏がアルミナやケイ酸分が含まれ、石膏の含有量は少ないが安全であるため最もよく使用されています。化学石膏と呼ばれる化学工場からの副産物も用いられることもありますが、セメントの品質に影響を及ぼす化学物質も含まれているので注意が必要です。石膏の重要な役割は、セメントが水に触れて急激に硬化する事を防ぐ事にあります。
以上に述べた原材料を用いてどのようにセメントが作られるかをこれから説明します。
3. セメントが作られる工程
3-1. 原料工程
まず、石灰石、粘土、ケイ石、酸化鉄原料を所定の配合割合になるように粉砕、乾燥、混合して粉体原料を作ります。もちろん、生産過程で混入される廃棄物も考慮して、配合を計算します。
3-2. 焼成工程
粉体原料は、セメントプラントの最上部に運ばれ、プレヒーターに投入されます。このプレヒーターの熱源は、仮焼炉からの熱以外に焼成窯(キルンと言います)の熱も利用されます。プレヒーターで仮焼きされた粉体原料は、キルンに入れられます。キルンの最高温度は、1450℃に達します。そこで所定の化学反応を終えてキルンから排出された高温のクリンカーは、冷風で急冷され、直径10-50㎜程度の塊になりクリンカーサイロに一旦貯蔵されます。キルンから排出された後、急冷されることが大変重要です。
3-3. 仕上げ工程
サイロに貯蔵されたクリンカーは所定の温度まで冷却され、硬化速度と調整するための石膏を加えて予備粉砕し、仕上げミルでさらに細かく粉砕して最終のポルトランドセメントとなります。焼成後は出来るだけ早く粉砕を行う方が良いのですが、十分に冷却できていないと石膏がその温度の影響で半水石膏に変化し、硬化速度調整機能が失われるだけでなく、凝結を早める結果となるので注意が必要です。こうして生産されたセメントは、その用途に合わせ高炉スラグなどを混合して、私たちの身近のインフラを静かにしっかりと支えてくれているのです。