セメントの成分とその水和機構

「セメントの原料」で述べた「セメントとは何者か?」引き続き「なぜ固まるのか?」を述べたいと思います。昔からセメントが硬化する事を「セメントが乾く」という事がしばしば聞いたことがあります。しかし、何故あんなに強度が出るのかそれは水と反応してできる水和生成物だからです。

Basilisk
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1. クリンカーの鉱物組成とその水和機構

セメント原料の説明で述べた石灰石、粘土、ケイ酸質原料、酸化鉄原料を所定の配合で混合し粉砕した原料粉体を最高温度1450℃で焼成したクリンカー、その4つの主成分について説明します。

1-1 アルミネート

先ずセメントと水が練り混ぜられると最初に反応するのがアルミネートです。水に接触するとすぐに発熱反応を起こし、急速に水和物を作ります。その主成分はアルミン酸三石灰(C3A)で、その反応は瞬結・急結します。

そのためクリンカーに石膏を加え、水、石膏、C3Aの三成分が反応してカルシウムサルフォアルミネート(エトリンガイト)が徐々に生成されることによって急結を防いでいると言われています。重量で100のCaSO4(石膏)に対し、重量141のH2Oと重量66のC3Aが反応して、3CaO-Al2O-3CaSo4-32H2O(カルシウムスルフォアルミネート水和物=エトリンガイド)を生成します。この反応は石膏を使い切るまで続きます。

セメントと水が接触すると、先ずセメント粒子表面に薄い水和物の層が出来、1~3時間セメント粒子の水和を停止させ、セメントペーストの流動性が保たれます。その間にエトリンガイトが徐々に成長し、針状結晶に成長して行きます。針状結晶の成長に伴い、セメントペーストは流動性を失って行きます。よってアルミネートはセメントの凝結に関与しますが、強度の発現は大きくありません。

1-2 エーライト

エーライトはケイ酸三石灰(C3A)を主成分とし、エトリンガイトの生成が終わるころ反応を始めます。C3Aは水と反応してトバモライト(C-S-H)という安定した水和物を作ります。最初がゲル状で針状結晶の間隙を埋めてゆきます。次第にC-S-Hゲルは結晶化して針状結晶の交わりを強固にして行きます。つまりC3Aは初期強度の発現に深く関与しています。

重量100の3CaO-SiOと重量24のH2Oが反応して、重量75のトバモライト(C-S-H)と重量49のCa(OH)2を生成します。このように多量の水酸化カルシウムも生成し、鉄筋の表面に不働態被膜を作り、鉄筋を腐食(錆び)から守ります。

1-3 ビーライト

練り混ぜから3日程度経つとビーライトが緩やかに水和を始めます。ビーライトは、ケイ酸二石灰(C2S)が主成分で、C3Sと同様に安定した水和物トバモライトを生成します。このトバモライトも最初はゲル状で針状結晶の残りの間隙を埋めてゆきます。徐々に結晶化が進み混練から1か月程度で最終強度の70-80%に達します。

C3AもC2S水和反応によって生成される水和物は、同様にトバモライト(C-S-H)と水酸化カルシウムの生成ですが、CaOの量が異なるのでトバモライトを生成する反応式は違ってきます。

重量100の2CaO-SiOと重量21のH2Oが反応して、重量100のトバモライト(C-S-H)と重量21のCa(OH)2を生成します。ビーライトはゆっくり結晶化するため長期強度の発現に寄与します。

1-4 フェライト

アルミノ鉄酸四石灰(C4AF)を主成分とし、その水硬性は微弱ですが、1200℃程度で溶融するためクランカーの生成反応を助ける働きがあり、コンクリートの耐塩性を高めると言われています。

2. ポルトランドセメントの硬化過程

それぞれのクリンカー鉱物に反応する水の量は大きく異なっています。しかし、ポルトランドセメントの水との水和物生成量は、大きく変わることはありません。よって、種々の化学成分を有するセメントについて、計算して化合水和量を求めると約28±1%となります。セメントが水に触れてどのように硬化するかを説明します。

2-1 凝結過程

セメントと水を練り混ぜてセメントペーストを作ると暫くの間何も起こりません。ある時点で急激に反応して凝結を引き起こすような印象があります。

しかし、実際にはセメントと水を練り混ぜたら直ちに反応が始まります。練り混ぜた水は水酸化カルシウムで過飽和の状態になり、C3Sは溶解しC-S-Hを徐々にゲルの状態で析出します。

その反応からフリーになった水酸化カルシウムは結晶化し、水と溶解したアルミネートと石膏とに反応してエトリンガイドを急速に生成する。このようにエトリンガイドとC-S-Hゲルの生成がこわばりを引き起こします。

しかし、凝結過程の初期のこわばりは練り返せば流動性を回復します。それは水分の多いコロイド状であるためで、それも暫くするとこのチキソトロピーの状態も消え失せ、凝結は進みます。

2-2 硬化過程

クリンカー鉱物組成とその水和機構で述べたそれぞれのクリンカー鉱物は、単独で存在するものではなく、焼成されたクリンカーは、その大部分は溶融した塊で、急冷された際にガラス状に固まります。

その後、粉砕された後の個々のセメント粒子には、独立したクリンカー鉱物は存在せず、各種のクリンカー鉱物をガラス状に固まった残存溶融物の中に含んでいます。こうしたセメント粒子は、凝結の期間にアルカリを溶出し、水とアルミネートが優先的に反応し、石膏も反応してエトリンガイドの生成が進みます。

この間もC3Sの反応進み、トバモライト(C-S-H)は成長し、ゲル状でエトリンガイド(針状結晶)の間を埋めてゆきます。そして徐々に結晶化し強度を高めてゆきます。これと同様にC2Sも針状結晶の空隙をゲルで埋め続け、結晶化してセメントマトリックスをより強化して行きます。

セメントは化学的に結合する水の他に、水の重量の約15%-30%をゲル水としてルーズな形で結合しています。このゲル水は、乾燥に伴い空気中に蒸発し、組織内にキャピラリー空隙(ポロシチー)を残し、セメント硬化体強度に大きな影響を与えます。

3. まとめ

セメントが水と練り混ぜられて、非常に複雑な反応が起こります。それぞれC3A, C3S、C2SそしてC4AFの反応が順序よく起こるのではなく、多少リンクしながら反応は進んで行きます。また反応して生成された物質が周辺の物質と反応して行きます。コンクリート中のすべてのセメント粒子が100%反応を終えるわけではなく、数十年後でもコンクリート中に未水和のセメント粒子が発見される事もあるのです。

まだまだ解明されていない部分が、セメントの固まる過程の反応においてたくさんあるのです。

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