乾燥収縮によるコンクリートのひび割れ

コンクリートに生じるひびわれには様々なな種類があります。コンクリートにひびわれが生じることは宿命的な欠点です。しかし、考え方によっては、この欠点のために昔からコンクリートの研究が現在まで進歩して、その結果、コンクリートの各種の性質がはっきりしてきたとも言えます。

乾燥収縮ひびわれは、コンクリートひびわれの種類の中でも最も頻度が多いひびわれです。ここでは、この乾燥収縮ひびわれについて、乾燥収縮ひびわれが発生する要因を概説するとともに、基準類やひびわれ対策方法について紹介します。

Basilisk
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1.コンクリートの乾燥収縮ひび割れとは

打設されたコンクリート中の水は、大気が乾燥状態にあると、時間の経過に伴って蒸発します。すると、当然コンクリートの体積は減少し、結果として収縮します。

この乾燥収縮は、コンクリートが自由に収縮できる状態にあるときには、コンクリートにひびわれを発生させません。しかしながら、コンクリート中の骨材や鉄筋、あるいはコンクリート構造物のように、柱や壁部材などによって拘束を受けると自由に変形できないため、コンクリートに引張力が生じます。

コンクリートの引張強さは「圧縮強さの1/10~1/12」とかなり小さいため、この収縮による引張力がコンクリートが保有している引張強さを超えてしまうと、ひびわれが発生します。

このひびわれが乾燥収縮ひびわれです。

図―1  乾燥収縮ひびわれの概念図

図―1  乾燥収縮ひびわれの概念図

2.乾燥収縮のメカニズム

セメントの硬化体は、固体部分と多くの微細な空間から出来ており、固体とその空間にある水は相互作用を生じていると考えられています。乾燥によって水分が蒸発した時、その相互作用に変化が生じることで収縮が発生するものと考えられており、その相互作用については、以下のような自然科学的に基づいた説が提案されています。

  1. 毛細管張力説
  2. 分離圧説
  3. 表面張力説
  4. 層間水移動説

これらの説で最も有力と考えられているのが毛細管張力説です。

毛細管張力説は、乾燥によって毛細管空隙(生コンクリートの練混ぜ水で占められていた空間において、セメントと水によって化学反応が起きた後も水和物で占められなかった空隙をいう)の中にある水が蒸発し、これに伴って負圧を生じ、固体部分が縮められていくという考え方です。

図―2  硬化セメントペースト中の毛細管水

図―2  硬化セメントペースト中の毛細管水

3.乾燥収縮に及びす要因

乾燥収縮量は、様々な要因により変化します。その代表的な要因を下表に示します。

 

表―1 代表的な乾燥収縮量に及ぼす要因

単位水量

コンクリートの単位水量が多いほど大きい

環境温度

温度が高いほど大きい

相対湿度

湿度が低いほど大きい

仮想部材厚

(部材の断面積/外気に接する部材の長さ)が小さいほど大きい

鉄筋比

構造物の鉄筋比(鉄筋量)が小さいほど大きい

 

4.コンクリートの乾燥収縮に関する基準

ひびわれがコンクリート構造物の耐久性に影響を及ぼすことは古くから指摘されており、各工学会の指針ではひびわれ低減策として乾燥収縮ひずみや許容ひびわれ幅の標準的設計値を規定しています。

日本建築学会では「建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事2009」において、計画供用期間が長期(およそ100年)、超長期(およそ200年)のコンクリートに対して、表―2のように乾燥収縮ひずみ「800×10-6」以下という規定を設けています。

表―2 コンクリートの耐久設計基準強度

表―2 コンクリートの耐久設計基準強度 (JASS5 2009)

[注](1) 計画供用期間の級が超長期で、かあぶり厚さを10mm

 

増やした場合は、30N/mm2とすることができる。

それではどうして「800×10-6」以下という乾燥収縮ひずみの規定が設けられたのでしょうか。古くは「コンクリートの調合設計・調合管理・品質検査指針案・同解説」(1976)に説明があります。既往の研究から、拘束力が大きい建築物のひびわれを制御するためには、乾燥収縮ひずみを300~400×10-6以下とする必要が有り、一般的に実験室レベルの供試体サイズの乾燥収縮ひずみとしては400~800×10-6が要求されるというものです。また最近では、乾燥収縮ひずみと予想ひびわれ幅の関係が研究から、「800×10-6」の妥当性が検証されています。

一方、土木学会では性能照査型設計に移行した近年の「コンクリート標準示方書」で、基本的に収縮の大きさを問うのではなく、実測または予測した収縮ひずみに対して、構造物の応答値が求められる要求性能を満たすかどうかを確認することとと記載されました。

しかし、その後コンクリートの収縮が原因とされる構造物のひびわれが問題となったため、過大な収縮を生じる場合の設計に対しては十分な検討が必要となり、2007年制定版の同示方書(最新版)では、設計段階での収縮の取り扱いに対して、実際に使用するコンクリートの実験値や既往の資料に基づくことを原則としました。

5.乾燥収縮ひびわれの対策方法

ひびわれは構造物の耐久性や防水性および美観などに影響を与えるため、適切な対策を施すことがとても重要です。

以下に乾燥収縮の抑制対策を示します。

(1)コンクリートの使用材料を検討する。

①乾燥収縮の小さい骨材を使用する。

コンクリートの乾燥収縮には、骨材の種類が大きく影響するといわれています。最近では、石灰石骨材の採用が乾燥収縮量を制御する一手法となっています。

②収縮低減剤を使用する。

収縮低減剤は1980年代に開発され、最近では「JIS A 6204 コンクリート用化学混和剤」の規格を満足し、収縮低減効果を付与したものも開発されています。

③膨張材を使用する。

コンクリート混和材である膨張材の使用が代表的です。コンクリートの硬化初期段階において膨張させることで、拘束のあるコンクリート構造物の断面に圧縮力を与えて、以後の乾燥収縮による引張応力を補償する効果を有しています。

(2)コンクリートの調(配合)を検討する。

コンクリートの調(配)合によって乾燥収縮量を低減する方法には、単位水量を低減し、セメントペーストの収縮を拘束する骨材量を増加させる方法があります。また、骨材の粒度調整を行うことも対策として考えられます。

(3)コンクリート構造物の拘束を緩和する。

乾燥収縮ひびわれの発生要因は、乾燥収縮が周囲の部材や鉄筋に拘束され、コンクリートに引張応力が生じることにあります。そこで、まず拘束の程度を緩和させることが有効になりますが、ひびわれ幅を制御する方法として代表的なものが鉄筋量を増加することです。これは、有害なひびわれを発生させないためには有効な手段となります。

また、床や壁のように広い面積を持つ構造物では、コンクリートの表面に誘発目地を設け、コンクリート表面の収縮を緩和させて計画位置以外の部位にひびわれを生じさせない方法も適用されます。

6. まとめ

乾燥収縮ひびわれは、様々な要因で発生するコンクリートのひびわれの中で、最も頻度が多く、古くから研究の対象となってきました。最近では、ひびわれ制御に対して社会的に高い関心が寄せられ、基準類の取り扱いが変更されてきています。また、乾燥収縮によるひびわれ対策は様々な方法があり、要求レベルに応じて総合的な検討を事前に行うことが重要となります。

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