セメントが不要になる?ジオポリマーコンクリートという革新

近年ジオポリマーという耳慣れない名前の材料が建設業界で注目を集めています。

ポルトランドセメントが発明されて約200年、セメントを用いたコンクリートはビルや橋、ダムと形となり人々の暮らしを支え発展させていきました。

しかし、セメントを製造する際に排出される多量のCO2は、近年環境問題として取り上げられることが多くなっていることも事実です。

ジオポリマーはアルミナシリカの粉末とアルカリ溶液を混合することで作られ、セメントを用いずコンクリートと同等の物性をもつ固化体を形成することができます。

セメントを用いないことで製造時のCO2排出量が少なく、また材料に様々な産業副産物を有効利用できるという非常に可能性に満ちた材料のジオポリマーについて解説します。

Basilisk
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1. ジオポリマーとは

ジオポリマーは、フランス人科学者のジョセフ・ダビドビッツ氏によって提唱された用語で、ケイ酸アルミニウムを主成分とした粉体とアルカリ溶液を用いて硬化させたものとされています。

いまだ世界各国で研究途上の新素材であるため、原料として用いられる粉体やアルカリ溶液も非常に多様なものが用いられており、その結果硬化体を構成する反応生成物も大きく異なることで、普遍的な配合設計や強度管理手法の確立には至っていないようです。

2. ジオポリマーの利点

ジオポリマーで作られたコンクリートは、従来のセメントコンクリートと比較して以下のような利点があります。

・原材料の製造時に発生するCO2がセメントに比べ少ない

セメント製造時のCO2排出の大半が石灰石の焼成時に発生するものですが、ジオポリマーの原料製造時にはこの工程を含まないためCO2排出量は少なくなり、同じ構造物を建設した場合約80%のCO2排出を削減できるとの報告もあります。

・耐火材料として期待できる

セメントコンクリート自体もある程度の耐火性はありますが、内部にセメント水和物として水分を持つために過度な高温に曝されると脱水・分解が進み強度低下を起こしてしまいます。

一方、ジオポリマーコンクリートはセメント水和物を含まないか、または非常に少ないために高温になっても脱水・分解は生じにくいため、次世代の耐火材料として期待されています。

・高い耐酸性を持つ

セメントの固化体であるコンクリートは、カルシウム化合物で構成されているためマトリックスが酸に溶けやすいという欠点があります。

しかし、アルミノケイ酸で構成されたジオポリマーコンクリートは酸に溶けにくいため、酸性の温泉地域での適用などがすでに一部実施されています。

・アルカリシリカ反応を抑制する

アルカリシリカ反応とは、セメントコンクリート中で骨材が膨張することによって強度低下や鉄筋の破断を引き起こす、非常に重大なコンクリートの劣化現象の一つですが、ジオポリマーコンクリートでは膨張反応を引き起こすカルシウム分が少ないことと、セメントコンクリートに比べ低いアルカリ性のためアルカリシリカ反応を抑制する効果が高いことが知られています。

このことにより、従来アルカリシリカ反応を引き起こす可能性があるとされてコンクリートに使用できなかった骨材も、ジオポリマーコンクリートには使用できる可能性があり、限りある資源の有効利用の観点から期待されています。

3. ジオポリマーコンクリートの製造について

ジオポリマーコンクリートは、従来セメント+水+骨材で構成されていたコンクリートを、アルミナシリカ粉体+アルカリ溶液+骨材に変えたもので、素材の構成としては粉体+液体+骨材(砂・砂利)と共通しています。

そのため、練り混ぜのプロセスや製造設備はある程度共通していますが、ジオポリマーコンクリートの性能を発揮するための特徴的な点もあります。

3-1. 材料

ジオポリマーの固化はアルミナシリカ粉体とアルカリ溶液の反応によります。

ここではジオポリマーに利用可能な粉体とアルカリ溶液を、既存の研究からご紹介します。

・粉体材料

アルミナシリカの原料としては、フライアッシュ(火力発電の副産物、石炭灰)や高炉スラグ微粉末(製鉄時の副産物)、メタカオリン(粘土鉱物の焼成物)などが主に使用され、他にももみ殻灰、油ヤシの搾りかすを焼成したパームアッシュ、廃ガラスや都市ごみ焼却灰や下水道汚泥の焼却灰など多岐にわたり、産業副産物の活用が盛んに研究されています。

・アルカリ溶液

アルカリ溶液には、ケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)やケイ酸カリウム溶液が主に用いられ、主な研究はケイ酸ナトリウム溶液を用いて行われています。

他には水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム溶液、炭酸塩や硫酸塩、硝酸塩やアルミン酸ナトリウムなどを用いた研究も行われています。

・混和剤

ジオポリマーコンクリートの作業性の改善の目的で、混和剤を添加するケースがあります。フライアッシュを主材としたジオポリマーコンクリートでは、ナフタレンスルホン酸系の高性能AE減水剤を添加することで、粘性が下がり作業性が向上します。

3-2. 練り混ぜ

練り混ぜには、セメントコンクリートと同様のモルタルミキサやパン型ミキサ、強制二軸式ミキサなどが用いられます。

既往の研究によると、セメントコンクリートと比べ練り混ぜ時間は長くする必要があるようです。

3-3. 養生

一般の温度環境ではアルミナシリカとアルカリ溶液の反応は非常に遅く、コンクリートとして型枠内に打込んでも型枠を外せる強度に達するまでに長い時間を要します。

そのため、ジオポリマーコンクリートでは高温蒸気などを用いて熱を与える給熱養生が行われるのが一般的です。

コンクリート二次製品と同様に前置き養生と蒸気による給熱養生を施すことで、初期強度は著しく増加します。

ボイラーやヒータなど、加熱設備を準備できない現場打ちなどでは常温による養生に頼るほか無く、そのような場合は高炉スラグ微粉末などカルシウムを多く含む粉体の添加が有効であるとされています。

反面、高炉スラグ微粉末の添加量が増すと凝結が早くなり可使時間が短くなるという報告もあり、効果的な凝結遅延剤の開発が待たれます。

4. ジオポリマーコンクリートの物性と耐久性

4-1. ジオポリマーコンクリートの物性

「材料」の節でお話ししたように、原材料となる粉体とアルカリ溶液の種類が多岐にわたるため、硬化後の性質に影響を及ぼす要因は数多くありますが、圧縮強度は100N/mm2超のものも製作可能のようです。

また、曲げ強度はおおよそ圧縮強度の1/7~1/5.5の範囲で、引張強度は1/13~1/17とセメントコンクリートよりも若干小さい比率となるようです。

また、静弾性係数も普通コンクリートと比べてやや小さくなるようですが、鋼材との付着性や柱、梁部材の挙動や破壊モードは通常の鉄筋コンクリート部材と類似していることが示されています。

4-2. ジオポリマーコンクリートの耐久性

ジオポリマーの利点の節でもご紹介したように、耐酸性が高くアルカリシリカ反応を抑制する効果を持ち、また耐火性も優れます。また、海水や硫酸塩による浸食に対し優れた抵抗性を持ちます。

しかし、アルカリ性が低いことによる中性化の早さや、材料の組み合わせによっては凍結融解に対する抵抗性が低くなる可能性もあるため注意が必要です。

5. 国内外の適用事例について

いまだ研究途上であるジオポリマーコンクリートですが、実際に現場で使用された例が国内外で数例あります。

国内では、酸性の強い温泉地域での道路の境界ブロックや九州での水路の木柵の代替があり、海外ではオーストラリアの空港での舗装コンクリートや、タイでのトラックヤードの土間に使用されています。

6. まとめ

セメントを用いないことでCO2排出量を減らすことができ、また原材料に産業副産物や廃棄物を利用できることで地球環境への貢献度が高いジオポリマーコンクリートは、次世代の建設材料として世界中で非常に高い関心を集めています。

しかし、まだ原材料の多様さによる組み合わせの複雑さのため、画一的な配合設計手法が確立されておらず、また長期耐久性などのデータも不足しており広く一般に構造物として使用できる環境がまだ整っていません。

今後さらに研究が進み、構造的な物性や長期の耐久性が明らかになることで従来のコンクリートが適応できなかった環境や条件で活用されていくことが期待されます。

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