トンネルのコンクリート剥落

皆さんはトンネルと言われて、見たり聞いたり、また、トンネルそのものを通ったことがないという方は少ないのではないでしょうか?それだけトンネルというものが身近であり、生活の一部として浸透している構造物だという事でしょう。

そんなトンネルを、「このトンネルは通って大丈夫かな?」と考えながら通る人はいるでしょうか?ほとんどの方がそのような考えを抱くことすらないでしょう。

しかし、過去にはトンネル通行中にコンクリートが剥落し、事故が発生した事があります。

今回はそんな「トンネルのコンクリート剥落」について紹介したいと思います。

1. トンネルのコンクリート剥落事例

トンネルで起きた事故としては、2012年12月2日に発生した「笹子トンネル天井板落下事故」が記憶に新しいと思います。この事故は山梨県大月市笹子町の中央自動車道上り線の笹子トンネルでコンクリート製の天井板が約130mに渡って落下し、走行中の車両が複数台巻き込まれ、9名が亡くなられるという痛ましい事故が発生しました。

ここでは、トンネル事故として大きく取り上げられた「福岡トンネルコンクリート塊落下事故」および「北九州トンネルコンクリート塊落下事故」の2つについて取り上げたいと思います。

1-1. 福岡トンネルコンクリート塊落下事故

平成11年6月27日、小倉、博多間の福岡トンネルにおいて、覆工コンクリートのアーチ部の一部(重さ約200㎏のコンクリート塊)が剥落して、走行中の新幹線車両を破損させる事故が発生しました。

この事故では、人的被害は出ませんでしたが、コンクリートの塊が新幹線の車両を直撃したことで、車輌の一部やパンタグラフを破壊、ダイヤは混乱し十数万人の乗客に影響を及ぼす等、新幹線の安全性を揺るがし、従来は半永久的な構造物と考えられていたコンクリートの信頼性が大きく損なわれた事故として話題となりました。
このため、JR西日本では、事故後、11年6月から7月の間に山陽新幹線の全トンネル(142トンネル、総延長約280km)において、剥落の要因となったコールドジョイントの点検を実施して、93トンネルに計2,049箇所のコールドジョイントを確認し、補修が必要と認められた301箇所について、鋼材による剥落防止工を施工しました。

この事故を契機に、コンクリート構造物の老朽化問題が社会問題として認識されることとなりました。

1-2. 北九州トンネルコンクリート塊落下事故

福岡トンネルの事故から約3ヶ月後の平成11年10月9日、小倉、博多間の北九州トンネルにおいて覆工コンクリートの側壁部の突起部(重さ約226㎏のコンクリート塊)が剥落する事故が発生しました。

この事故は、始発前の点検実施時にコンクリート塊が落下しているのが発見されたもので、直接的な被害はなかったものの、同日は一時全線で運休となり、3連休の初日であったことから、約6万人の足に影響が出る事となりました。

福岡トンネル、北九州トンネルの事故を受け、自体を重く見たJR西日本は、再発防止のため、10月25日、全142トンネルを対象に、12月15日という期限を設けて過去に例のない大点検が実施されました。

2. 事故原因

福岡トンネル事故の原因は、トンネル施工時にコールドジョイントと呼ばれる不連続な面が生じたことで、コールドジョイント内部にひび割れが発生し、進展することで、コンクリート片が落下するに至りました。

コールドジョイントは、コンクリートを打ち重ねる事が可能な時間の間隔を過ぎてコンクリートを打設した場合に、前に打ち込まれたコンクリートと後から打込まれたコンクリートが一体化しない状態となり、打ち重ね部分に不連続な面が生じる事を言います。

北九州トンネル事故の原因は、「逆打ち」という工法によって施工された際に設けられる、突起状の打ち込み口と、トンネル側壁本体との間にひび割れが発生し、長期間に渡る漏水や温度変化、列車の振動などによってひび割れが進展し、最終的には突起状の打込み口が自重で落下したと見られています。

「逆打ち」工法とは、トンネル上部のアーチコンクリートを先に施工し、後から側壁のコンクリートを打込む工法で、側壁の型枠とアーチコンクリートとの間に突起状の打ち込み口を設けて側壁コンクリートを打ち込みます。この突起状の打ち込み口は、トンネルの構造設計上は不要な為、施工後には取り除かれるのが一般的でしたが、北九州トンネルでは取り除かれず残されていたため、落下する事態になってしまいました。

3. 対策

JR西日本では、相次ぐコンクリートの剥落事故を受けて、トンネルや高架橋等の検査周期や検査方法、その判定基準や補修工法の見直しを行うとともに、補修工事における資格認定制度の導入や、新しい技術開発成果の積極的な導入などを進め、保守管理体系の整備に取り組みました。

従来トンネル内の点検は、検査員によってハンマーを用いた打音検査をするのが一般的でしたが、事故発生後のテレビ映像で、上を向いた検査員が口を開けている作業状況が何度も放映され、土木技術に対する社会の信頼低下が懸念されました。

その結果、機械化による自動計測などの新技術開発が進められるようになり、代表的な新技術として以下のような技術が開発されました。

3-1. トンネル保守管理システム(TuMaS)

1999年に山陽新幹線の全トンネルについて検査を実施し、変状の展開図をCAD化するなど、検査データの整備が行われましたが、検査データが急増した為、今後の保守管理業務で検査データを有効に活用することが難しくなってしまいました。

そこで、トンネルの設備や、検査データ、補修工事履歴等を一元的に管理できるトンネル保守管理システム「Tunnel Maintenance System」、略して「TuMaS」が構築されました。

「TuMaS」の開発によってトンネル毎の変状展開図を地理情報として活用することで、各種データを一元的に管理でき、情報の検索や分析、編集などが迅速かつ正確に行えるようになりました。

3-2. トンネル覆工表面検査システム(SATUZO)

通常トンネルの検査や補修は、新幹線等の運行に支障がないよう、運行終了から翌日の始発までに行われます。

その為、短時間で効率よく検査、補修を行えるよう開発されたのが、トンネル覆工表面検査システム(SATUZO)です。

従来トンネルの検査は、人の目視検査によって行われてきましたが、SATUZOでは、目視検査をレーザーによって映像化する事が可能で、その画像をチェックし、夜間作業の検査箇所を事前に抽出する事で、検査を効率的に行うことが出来るようになり、適切な補修を行う事が出来るようになりました。

4. コンクリートが剥落に至った背景とは?

1980年代以降、極めて強固であると考えられてきたコンクリートの早期劣化が散見されるようになり、社会的な問題として捉えられるようになりました。

この背景には、高度経済成長期における、突貫工事やそれに伴う施工不良、資材不足による海砂の使用等が原因であると考えられています。

山陽新幹線は1975年3月に全線開通しましたが、それは当初の開業予定から3か月も遅れたものでした。当時の建設現場では、それ以上工期を延ばすことが出来ない状況で、建設ラッシュによる人手不足、併せてオイルショックが訪れた事で、資材の不足が起こる中での突貫工事になり、結果として福岡トンネルの事故原因となったコールドジョイントのような施工不良をもたらす結果となりました。

また、資材の不足によって、採取が容易で安価であったことから、コンクリートの骨材として海砂が用いられるようになりました。従来、コンクリートに用いられる骨材といえば、河川から採取された川砂や川砂利を意味していましたが、乱掘によって河川の汚濁や、河床の洗掘が進み、河川管理上好ましくないとされ、1965年(昭和40年)頃から河川保護を目的として河川での骨材の採取が規制されるようになりました。

高度経済成長末期、良質な川砂に恵まれなかった中国地方では、安価で無尽蔵とされた海砂が注目され、山陽新幹線にも多くの海砂が使用されました。しかし、海砂は事前に十分な除塩がなされていなければ、鉄筋の腐食やアルカリ骨材反応を助長し、丈夫であるはずのコンクリート構造物を、ぜい弱なものに変えてしてしまうものでしたが、当時の建設省が除塩の徹底を求める通達を出したのは、山陽新幹線の全線開業から2年後の1977年でした。

5. まとめ

トンネルでのコンクリート剥落事故は、当時の社会情勢や規制等によって生産性を追求してきた結果、本来重視するべき安全性や品質を置き去りにし、本来は丈夫で、生命を守る為に作られたはずのコンクリート構造物を、危険な物へと変えてしまった結果と言えます。

近年では労働環境改善の為、「働き方改革」が叫ばれ、一人当たりの労働時間は減少し、結果として事故が発生した「福岡トンネル」建設当時のように生産性を追求しなければならない社会情勢となってきています。

生産性の追求は決して悪い事ではありません。しかし、安全性や品質を第一に考える事がいかに大切であるかを、今一度思い起こす必要があるのではないでしょうか。