紀元前3000年ごろから続くコンクリートの長い歴史の中で最も大きな技術的進歩は、鉄筋コンクリートの発明です。それまで石やレンガなどをセメントで接着して造られていた構造物が、一挙に鉄筋コンクリートが主役に踊り出すことになります。これを第一次コンクリート革命であれば、第二次革命はAE剤の発明だと思います。これによって温帯から寒帯に至る広い範囲で用いられていたコンクリートは格段の耐久性を得る事になります。第三次革命は、打設技術の進歩です。特にポンプ圧送と高流動コンクリートは、複雑な配筋を容易にし、建設技術は飛躍的な進歩を遂げます。
約5000年続いたコンクリートの長い歴史の中で、僅か150年余りで起きたこうしたInnovationは、人間の生活様式の変化とそれに伴う社会の変化がもたらしたと言えます。それでは第三次コンクリート革命・Concrete Industry 4.0は何でしょう?私は、3Dプリンティングだと思います。
それではC4.0でのコンクリート工事はどういったものになるのでしょう。設計要因をシステムに入力する、3Dの図面がシステム上に現れる、3D材料を練り混ぜ3Dプリンターへ供給する、そして図面に従いプリントするという事になります。その間に作業に関わるエンジニアは、その規模にもよりますが、3D材料の供給に1名、3Dプリンターを管理に1名の合計2名で可能という事になります。
1. 3Dプリンティングされた構造物の品質は?
C4.0は、耐火性を考えればセメント系とジオポリマー系(ポゾラン反応を利用した硬化体)が考えられます。
セメント系は、セメントの水和反応を促進させ、ポリマーと短繊維で靭性を改善させた材料です。ジオポリマー系は、フライアッシュや未反応珪酸質を有した鉱物を核とし、硬化刺激材としてアルカリを用います。当然靭性を付与するため短繊維などを用います。これらは工業製品として事前にプレミックスされた材料であり、正確に計量された水で練り混ぜられるため、C3.0に比べ品質に影響を与える因子を少なくすることが出来ます。よって構造体内のC4.0は、均一な品質が確保できると言えます。
C4.0の圧縮強度は、40N/mm2以上を基準とするため製作する構造物に対して十分な耐力を確保できます。C4.0は防水性や長期の耐久性を確保できる複合材であるため、長期間耐久性や環境の変化への対応力を付与されています。
2. 環境への影響
C3.0とC4.0の大きな違いの一つは、炭酸ガス排出の抑制です。セメント系C4.0は、材料が起因する排出ガスはほぼ同程度と考えられます。しかし、骨材や生コンクリート運搬によって排出される炭酸ガスや現場での様々工程で発生するエネルギーの消費を大幅に削減できることが出来ます。
ジオポリマー系C4.0は、セメントを用いないためセメント生産によって発生する炭酸ガスをゼロに出来ます。セメントを1トン生産するために排出される炭酸ガスは、0.77-0.80トンと言われています。石炭火力発電の副産物として発生するフライアッシュを用いた場合、80%程度削減する事が出来ます。
3. 社会構造の変化
人間は社会構造の変化に気づきつつも、それに順応し、納得して対応するまでには一定の時間が掛かります。核家族化、少子化についても今盛んに論議されていますが、それは50年も前に分っていたことです。
建設現場でも、熟練労働者、経験に裏打ちされた技術者が不足する事も同様に以前から明確になっていました。しかし、それらに対応する法律整備の遅れや企業の体制の遅れ、規格・標準の修正・改定が追い付いていないのが実情です。
多くの人は住宅を一生の買い物と決意し、30年の住宅ローンで若き日にマイホームを持ち、心浮きたつ生活をスタートします。しかし、子供も育ち、夫婦二人の生活に帰った時、広すぎる家に戸惑います。そうであれば、まるでちょっとした高級車を5年のローンで購入する感覚で、今現在の家族構成や生活スタイルに合わせた住処を持ち、5年後、家族構成など生活に変化があればそれに合わせて増築、改築、建て替えが容易にできる仕組みが出来ればと考える若い人たちは多いのではないでしょうか。
4. まとめ
まだまだ日本における3Dプリンティングコンクリートの市場は形成されているとは言えません。しかし、アメリカ合衆国での市場調査データによると2015年の市場規模は2.450万ドルであったのに対し、2021年には5,640万ドル規模に拡大するという予想しているようです。
また、UAEのドバイでは、低層の建築物の約30%は3Dプリンティングで行う事が法整備されています。こうなると技術水準は、一気に高まります。日本も最先端の建設技術国家と暢気に胡坐をかいている場合ではないと思います。安全性と信頼性を担保しながら、こうした技術を以下にスピーディーに普及させ、発展させてゆくが重要で緊急な課題となっています。