マンションの壁や擁壁等、コンクリートで出来た壁はいろいろなところで見ることが出来ます。それらの壁をよく見ると、ひび割れや剥がれ等の変状(劣化)が発生している事があります。
これらの劣化現象は、気付かずに放置してしまうと構造物に大きな損害を与えてしまう場合もあるので、状態をチェックし対応していく必要があります。
この記事でわかること
【はじめに】コンクリート壁の状態をしっかりとチェックする
コンクリート壁といえば、住宅の壁や住宅周りの擁壁、高さは低いですが住宅基礎等、周りを見渡せば大なり小なりコンクリート壁を見かけるでしょう。
普段はコンクリート壁をじっくりと見ることは少ないと思いますが、よく見るとひび割れや剥がれ等の変状(劣化)が発生している事があります。気付かずに放置してしまうと構造物に大きな損害を与えてしまう場合もあるので、コンクリート壁の状態を一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
今回はひび割れや剥がれ等の変状とその補修方法について説明していきましょう。
1. ひび割れとは?
コンクリートは本質的にぜい性材料(物体が外力を受けた時に、変形できず破壊してしまう性質)であり、コンクリート構造物とひび割れは切っても切れない関係と言っていいでしょう。
現状の技術では、ひび割れの発生を完全に防止する事は出来ず、よく施工されたコンクリート構造物であっても、コンクリート表面には多種多様なひび割れが認められます。
「ひび割れ」の発生要因は複雑で、多くは複数の原因により、複合的に発生する場合がほとんどです。今回はコンクリート壁によく発生するひび割れを抜粋し、発生原因についてまとめました。
1-1. 乾燥収縮によるひび割れ
コンクリート表面が乾燥されて収縮することにより発生するひび割れ。コンクリート打設後初期(2~3か月程度)に発生し、部材の長手方向とほぼ垂直に、直線状のひび割れが発生し、壁の開口部では放射状に発生します。
発生時は0.05~0.5㎜程度と軽微なひび割れですが、時間の経過とともにひび割れ幅が拡大することもあります。
1-2. 沈下(沈み)によるひび割れ
コンクリートの打設後に、ブリージング(コンクリート中の水分が、セメントや骨材等重い材料が沈下することに伴い分離して浮き上がる現象)の発生によってコンクリート面が沈下するのを鉄筋等で局部的に妨げられた場合に発生するひび割れ。
コンクリート壁の場合、型枠を抑える為に用いられるセパレータやPコンの位置にV字型のひび割れとして発生する事が多く見られます。
1-3. 温度変化によるひび割れ
コンクリートは温度変化により伸縮する性質があり、その変化を鉄筋や地面、柱や梁等で拘束されることによりひび割れが発生します。コンクリートの熱膨張係数は10×10-6/℃程度であり、長さ10mのコンクリート壁の場合、30℃の温度変化で約3㎜の伸縮が発生します。
無筋コンクリート壁の場合、比較的大きいひび割れが入る傾向がありますが(ひび割れの本数は少ないが幅は大きい)、鉄筋コンクリート壁の場合、内部の鉄筋がひび割れを拘束する為、小さなひび割れが分散して入る傾向があります。(ひび割れの本数は多いが幅は小さい)
1-4. 打継ぎ処理の不備によるひび割れ(コールドジョイント)
コンクリートを打設する際に、先に打設した層のコンクリートと後に打設した層とが一体化しなかった場合コールドジョイントとなり、コールドジョイント部は打継ぎ強さが弱い為、乾燥収縮等によるひび割れの起点となる場合があります。
コールドジョイントは先に打設したコンクリートが、次の層が打設されるまでに固まってしまった場合や、締固め作業が不十分な場合等に発生します。
1-5. 鉄筋の発錆によるひび割れ
コンクリートが中性化する事によって、内部の鉄筋が腐食(錆びる)し、鉄筋が膨張する事によりひび割れが発生します。
鉄筋に沿ってコンクリート表面に、規則性のある直線上の大きなひび割れが発生し、ひび割れ発生以後は、水や酸素の侵入により、さらに鉄筋の腐食が促進される為、ひび割れ幅の拡大やコンクリートのはく離、錆汁の流出による変色を伴う事があります。
また、コンクリートが中性化していない場合であっても、その他のひび割れによって水や酸素が浸入した場合も、鉄筋の発錆によるひび割れが発生します。
1-6. 凍結によるひび割れ
コンクリート内部の水分が凍結する事による膨張圧(約10%の体積膨張)でひび割れが発生する。コンクリート表面の全体にわたって、不規則で、細かい表面ひび割れが発生します。
1-7. 外力によるひび割れ
何らかの外力がコンクリート構造物に作用した事によって生じるひび割れで、外力としては不等(同)沈下や地震の影響、凍土圧によるもの等があります。
これらのひび割れは、一般的なひび割れとは異なり、ひび割れの発生箇所やひび割れ幅、長さ等、特徴的なひび割れが発生します。
1-8. アルカリ骨材反応によるひび割れ
コンクリートに含まれている骨材とセメントに含まれているアルカリ金属イオンが反応し、そこに水が入ることで膨張しひび割れが発生します。
鉄筋による拘束が小さい場合は亀甲状あるいは不規則なひび割れが発生し、鉄筋等の拘束が大きい場合は鉄筋の拘束方向に沿ったひび割れが発生します。現在では発生しないよう対策がとられている為、見かけることが少ないひび割れになります。
2. 剥がれ(浮き、はく離)とは?
剥がれ(浮き、はく離)は、コンクリートの中性化や凍害等を原因としてコンクリート表面の付着力が低下し、コンクリート表面が次第に剥がれる事を指します。
剥がれが進行しコンクリート断面が不足すると、鉄筋を守る為のかぶり部分が不足し、鉄筋の腐食や構造物の耐力低下、コンクリート片の落下被害等が発生する場合があります。
3. 【症状別】コンクリート壁の補修にあたって
ここまでコンクリート壁の変状(ひび割れ、剥がれ)について説明しましたが、ここからは各変状についての補修方法について説明していきましょう。
3-1. ひび割れの補修について
ひび割れの補修は、ひび割れを発見してすぐに補修を行うことが出来ません、ひび割れの補修にあたっては、以下のような手順をふみ補修を行う必要があります。
①ひび割れの発見
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②ひび割れ原因を推定する為の調査
いつひび割れが発生したのか?ひび割れの入り方に特徴はあるのか?ひび割れ幅はどの位か?等ひび割れの原因を推定する為の情報を収集します。
③ひび割れ原因の推定
ひび割れの調査結果から、何が原因のひび割れなのかを推定します。
(乾燥収縮ひび割れ?地震?乾燥収縮と温度ひび割れの複合かな?等々)
④構造物の要求性能(期待延命期間)へ与える影響の評価
ひび割れの発生に伴い、その構造物が要求性能を満たしているか。又は期待延命期間(今後どのくらい使いたいか?10年?20年?)から評価を行います。
⑤補修の要否の判定
ひび割れの発生原因、構造物の要求性能や期待延命期間から算定された評価から補修の要否を判断します。
⑥補修へ
以上の手順をふみ始めて補修を行う事が出来ます。
3-2. ひび割れの補修方法について
ひび割れの補修方法は、ひび割れの発生原因やひび割れ幅、期待延命期間等から必要な補修方法を選びます。ここではひび割れの補修方法について代表的な3工法について紹介します。
①ひび割れ被覆工法
ひび割れ被覆工法とは、微細なひび割れ(一般にひび割れ幅0.2㎜以下)の上に、ひび割れ追従性に優れた表面被覆材や防水材、目地材等を塗布する工法です。
②注入工法
注入工法は、防水性・耐久性の向上のほか、使用材料によっては部材の一体化を図ることも可能なため、コンクリート構造物全般に発生したひび割れの補修工法として最も普及しています。
注入材料には、エポキシ樹脂やアクリル樹脂、セメント系や、ポリマーセメント系などが用いられ、注射器のような治具を使いひび割れ部に注入し補修を行います。
③充てん工法
充てん工法は、ひび割れ幅0.5㎜以上の比較的大きなひび割れの補修に適した工法で、ひび割れに沿ってコンクリートをカットし、その部分に補修材を充てんする工法です。
ひび割れ幅0.5㎜以上ともなると、ひび割れ内部に水が浸入し鉄筋が腐食している場合もあります。そのような場合には、腐食した鉄筋の裏側までコンクリートをはつりとり、鉄筋のさび(錆)落しを行い、鉄筋の防せい(錆)処理をした後、補修材の充てんを行います。
3-3. 剥がれ(浮き、はく離)の補修について
剥がれ(浮き、はく離)の補修にあたっても、ひび割れと同様の手順をふみ補修を行う必要があります。手順については同様の為ここでは省略し、剥がれ(浮き、はく離)の補修工法について紹介します。
①左官工法
左官工法とは、補修面積が比較的小さい場合に用いられ、エポキシ樹脂やモルタル、ポリマーセメントモルタルを、左官コテで充てんする工法です。
②モルタル注入工法
モルタル注入工法は、補修面積が比較的大きい場合に用いられ、補修断面に合わせた形状に型枠を組み、ポリマーセメントモルタル等を充てんする工法です。
③コンクリート充てん工法
コンクリート充てん工法は、補修面積が大きい場合に用いられ、コンクリートを充てんする工法です。
④吹付け工法
吹付け工法は、補修面積が大きい場合に用いられ、あらかじめ練り混ぜた断面修復材を吹き付ける湿式工法と、紛体と水または混和液を別々に圧送して吹き付ける乾式工法があります。
4. 自分で補修が出来る症状・出来ない症状とは?
ここまで、コンクリート壁のひび割れや剥がれについての説明や、補修方法を紹介しましたが、補修を行うには構造物の詳細な調査や変状の原因を特定し、適切な補修方法を選定しなければいけません。
基本的には補修を行いたい場合は、専門的な知識を有した方に調査をしていただき、補修方法を選択してもらうのが望ましいでしょう。
以上を踏まえて自分で補修できる症状としては、軽微(深さ1~3㎝程度で鉄筋の錆等が発生していない程度)な「剥がれ(浮き、はく離)」の補修くらいだと思います。
この症状の補修は「左官工法」を用い、補修用のモルタルを塗りこむだけなので非常に簡単です。補修用のモルタルはホームセンター等で1000円前後で販売されている為、入手もしやすいでしょう。
その他の補修については専門の業者に依頼し、補修を行ってもらうのが良いと思います。
5. まとめ
コンクリートの変状やその補修方法について説明してきましたが、変状(劣化)の種類の多さや補修の難しさがご理解頂けたでしょうか?コンクリートはその印象から丈夫であると思いがちですが、コンクリートもまた時間とともに老化(劣化)していきます。一度じっくりと観察してみてはいかがでしょうか?