アルカリシリカ反応とは、骨材中の反応性鉱物とコンクリート中のアルカリ性溶液とが反応しコンクリート内部にアルカリシリカゲルを生成させる現象です。
このアルカリシリカゲルが、吸水・膨張することで内部に応力が発生し、その応力に耐え切れなくなると、コンクリート表面に巨視的なひび割れを発生させます。
この記事でわかること
1. アルカリシリカ反応とは
反応性骨材がコンクリート中の高アルカリ性水溶液と反応し、コンクリートに異常な膨張を引き起こして、ひび割れを発生させる現象です。
総称はアルカリ骨材反応と呼ばれており、アルカリシリカ反応、アルカリ炭酸塩反応、アルカリシリケート反応の3種類があると言われています。
しかし、最近の研究では、いずれの反応もアルカリシリカ反応であるという説が有力になってきています。
2. 発生のメカニズム
アルカリシリカ反応は、「高アルカリの環境」、「反応性骨材」、「水の供給」の3種類が存在する場合に発生します。その発生のメカニズムを解説していきます。
①アルカリシリカゲルの生成
アルカリシリカ反応を起こす反応性骨材は、骨材岩種中にシリカ(SiO2)をある種の形態で含む骨材です。安山岩、チャートなどに含まれる結晶シリカや無定形シリカなどのシリカ粒子は、水酸化ナトリウム溶液中において、シリカ粒子表面や内部の空孔の水素イオンを中和する反応を起こします。水酸化ナトリウム溶液の濃度が十分高い場合(高アルカリの環境)は、この中和反応に引き続いて、シリカ粒子の構造を弛緩させ、アルカリシリカゲルを生成します。
nSiO2 + 2NaOH → Na2O・nSiO2 + H2O(アルカリシリカゲル)
②アルカリシリカゲルの吸水・膨張
①で発生したアルカリシリカゲルは、周りの水を取り込む性質があります。たとえば、コンクリート内部にある水、雨で染み込んできた水、外水位による水(水の供給)など様々な要因によって水が供給されます。その結果、アルカリシリカゲルは周囲の水を吸い込み徐々に膨張していきます。
Na2O・nSiO2 + mH2O → Na2O・nSiO2・mH2O(膨張生成物)
③ひび割れの発生
アルカリシリカゲルが吸水・膨張することにより内部応力が発生します。その応力に耐えきれなくなると、骨材粒子内部に微視的なひび割れが発生し周囲のセメントペーストが破壊されます。この微視的なひび割れが累積することによって、コンクリート表面に巨視的なひび割れとして現れます。
また、構造物の表面とその内部とでは温度や湿度が違うため、それぞれの膨張量に差が生じます。そのような構造物の膨張量の差や鋼材や外部から受ける拘束によってコンクリートに発生する応力、また局部的なアルカリシリカ反応の進行度合が異なるために生じる部材間の変形差に起因する応力によっても巨視的なひび割れは発生します。
以上がメカニズムとなります。下記の図が一連の流れを図化したものです。
3. アルカリシリカ反応によるひび割れの種類
一般的に、アルカリシリカ反応によるひび割れは一様ではありません。しかし、構造物の置かれた環境条件(温度、湿度、水掛りなど)、鋼材量や外部拘束の有無による拘束条件の影響を大きく受けます。そのため、拘束力の小さい場合と大きい場合でのひび割れをある程度区別することが可能です。
3-1. 拘束力が小さい場合
無筋コンクリートや鉄筋量の少ないRC構造物では,地図状、網の目状もしくは120°に交差する亀甲状とよばれるランダムパターンのひび割れが特徴的です。無筋コンクリートでも外部からの拘束力があれば拘束方向にひび割れを生じる場合があります。
主にこのひび割れは、無筋である重力式擁壁や比較的鉄筋量が少ない壁面に発生します。
3-2. 拘束力が大きい場合
RCやPCなどの構造物では内部膨張力は拘束力が弱い方向に作用するため、鉄筋もしくはPCの拘束方向に沿ったひび割れが生じます。拘束力の大小や場所、環境条件の違いなどにより、様々なひび割れのパターンがあります。
橋脚は鉛直方向の主鉄筋に対し水平方向の帯鉄筋の量が多くないため、主鉄筋に沿ったひび割れが卓越しています。水平方向のひび割れは鉄筋に添ったひび割れをつなぐように生じます。
建築の構造物であれば梁に沿ったひび割れが発生します。
4. まとめ
この反応が最初に注目されたのはアメリカのカリフォルニアにあるKing City 橋のピアに生じた異常なひび割れでした。T.E. Stantonの論文でこれらのひび割れがアルカリと骨材との間の化学反応によるものであるということが指摘されました。
日本では1983 年に初めてアルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の劣化が明らかになりました。そのきっかけとなったのは阪神地域における高速道路や鉄道の高架橋、道路橋などに生じていた異常なひび割れでした。
それ以降アルカリシリカ反応に対する調査・研究は活発に行われましたが、予防対策が明文化されるとともに関心は薄れ、以後は主として劣化対策の研究のみが進んでいきました。しかし近年になり、異常膨張を起こした構造物の鉄筋破断事例が続々と発見され、新たな注目を浴びています。鉄筋破断に至ったASR構造物の特性については未解明な部分も多く、その実態調査とともに、メカニズムの解明や対策手法の確立が急がれています。