建物の構造躯体(壁、床、梁、柱)に後から穴を開けることを「コア抜き」と言います。配線、配管の増設や、耐震診断のテストピース採取などに利用されます。
ここでは「コア抜き」の方法や、その危険性について解説します。
この記事でわかること
1. スリーブとコア抜きについて
通常、建物の建築時には、あらかじめ電気・空調設備の配線や、配水管などを通すための「スリーブ」という貫通孔を開けます。
スリーブ工事は、コンクリート打設前に穴を開けたい箇所にボイド管と呼ばれる筒状の紙管や、樹脂製のスリーブ管などを取り付け、生コンクリートを打ち込みます。コンクリートが固まったら管を外してスリーブの完成です。
なお、貫通孔が開くと躯体の強度が低下するため、スリーブ周辺には補強の鉄筋を取り付けます。
コア抜きとは、出来上がった建物に後から穴を開ける工事です。リフォームや改修工事のほか、設計ミス等によるスリーブの入れ忘れにも、コア抜きで対処することがあります。
2. コア抜きの危険性
2-1. スリーブの施工ミスによるコア抜き
2014年、完成間近の高級マンションで600ヶ所もの不適切なコア抜き工事が発覚し、ニュース番組や週刊誌で報じられ話題となりました。
問題のマンションでは、全部で6000ヶ所あるスリーブのうち、600ヶ所で本来あるべき位置にスリーブが存在しないか、位置が違うという不備がありました。さらに、鉄筋位置の調査をせずにコア抜きを行ったため、鉄筋が切断された箇所もあったとのことです。
鉄筋を切断すると構造強度が損なわれ、建物の安全性が保証できなくなります。結果、施工業者が全額負担でマンションの解体・建て替え工事が行われました。
同様の欠陥工事は全国で多数報告され、建物を解体するケースが相次いでいます。
2-2. 「コア抜きは危険なのか?」
コア抜き自体は正しい手順を踏み、安全を確認して行えば悪いことではありません。
通常、躯体以外の部分に穴を開けることは、構造上も何の問題もありません。
問題は、コンクリート構造躯体に穴を開ける場合です。コンクリート内部には細かい間隔で鉄筋が入っています。不適切なコア抜き工事でこの鉄筋を切断してしまうと、その鉄筋が入っていないものとして構造計算をやり直さなければなりません。建築基準法が定める構造強度を下回る恐れもあります。そうなると最悪の場合、地震で建物が倒壊する危険性も高まります。
2-3. 正しいコア抜きの手順
コア抜きを行う場合、鉄筋を切断してしまわないように鉄筋調査を行います。万が一鉄筋を切断することがあれば、建物の安全が損なわれますので、事前調査は非常に重要です。
実施前に必ず正しい手順を踏んで行ってください。
<手順>
- 設計事務所・建築士・構造設計監理者へ報告
- レントゲン撮影によるコンクリート内調査の実施(鉄筋の位置・太さなど)
- 鉄筋位置・コンクリートかぶり厚を確認のうえ、穴を開けても問題ない位置を選定
- コア抜き位置・サイズ・コア抜き数をふまえ、再度構造計算を行い安全確認
- コア抜き工事を実施
3. コア抜きの方法とは?
コア抜きには主に乾式穿孔と湿式穿孔の2つの方法があります。一般的には水を使った湿式工事が多いようです。最近では乾式/湿式兼用のコアドリルも市販されていますが、それぞれの特徴を理解したうえで判断してください。
3-1. 乾式穿孔
ハンマードリルにコンクリート専用のキリを取り付けて穴開けをする方法。
●乾式のメリット
- 水が使えない場所でも利用可能
- 階下に水漏れの心配がない
- 湿式に比べ、機械をセットする必要がないので手軽である
●乾式のデメリット
- 大量の粉塵が舞うので、防塵マスク・防塵メガネが必須、養生が必要
- 摩擦熱でドリルの消耗が早い
- 鉄筋に当たると、切断にかなり時間がかかる
- 打撃で穴を開けるため、貫通するときにコンクリート面が崩れることがある
- 削孔長は使うキリの長さまで
3-2. 湿式穿孔
先端にダイヤモンドビットがついたコアドリル(穿孔機)を使用する。
●湿式のメリット
- 切込みが軽く、高精度な穴開けが可能
- 水を使うことで粉塵の発生を抑える
- 鉄筋にあたっても簡単に切削するため短時間で穿孔可能
- 穿孔面に凹凸が少なく、補修の必要が無い
- 冷却水で摩擦熱を冷ますことで、ダイヤモンドビットが長持ちする
- 延長ロッドを使用することで深い穿孔も可能
●湿式のデメリット
- 専用の機械が大変高価である
- 機械の取り扱いに、ある程度の技術が必要
- 汚水(切断水)の養生、処理に手間がかかる
- 周辺の電気機器に水が接触しないよう注意が必要
4. 施工前の確認事項
安全で効率よい施工をするために、事前に下記の事項について施工業者や関係機関と打合せのうえ、確認・準備しましょう。
4-1. 騒音対策
乾式・湿式どちらもかなりの騒音が発生します。周辺環境の許容範囲内かを確認し、超える場合は防音対策をしましょう。
4-2. 安全確認
作業現場は関係者以外立ち入り禁止とし、貫通させる場合は向こう側の状況も確認して安全確保につとめましょう。
4-3. 粉塵・汚水・コンクリート塊の処理
粉塵や汚水が飛び散らないように養生し、汚水は保管場所を準備します。
コンクリート塊が安全に回収できるよう事前に質量を確認し、保管場所を準備します。
5. まとめ
コア抜き工事はどこでも無制限に出来ることではありません。気軽に開けた穴が重大な問題に繋がることもあります。
リフォームやリノベーションでやむを得ずコア抜き工事をする場合は、まず開ける位置や大きさ、補強方法を構造設計者に指示を受けることが大事です。そして信頼できる業者に依頼してください。
マンションならば、マンション規約を確認し、管理組合の許可を得たうえで行ってください。