かつてコンクリートは非常に丈夫であり半永久的な寿命を持つ、メンテナンスフリーな材料とされてきました。
しかし、近年ではコンクリート内部の鉄筋腐食や凍結による被害、コンクリートの癌とも呼ばれるアルカリ骨材反応などを原因とした劣化が報告され、いまでは決してメンテナンスフリーではない「適切に維持管理をしながら利用する材料」という認識が広がっています。
では、本当にメンテナンスフリーの実現は不可能なのでしょうか?メンテナンスフリーを目指す新しい技術について紹介します。
この記事でわかること
1. コンクリートの寿命
一般的に、コンクリートの寿命というのは何年くらいになるものなのでしょうか。
世界に目を向けると、現在のセメントやコンクリートと組成の違いなどはありますが、コンクリートで造られた遺跡や構造物が数千年の時を経ても現存して残っている例が数多くあります。
一方、近年建設されたコンクリート構造物の中には早期に劣化を始め、50年ともたずに供用を停止してしまっているケースもあります。
この二つの差は、コンクリートが鉄筋と組み合わせて使われることが主になった事と、ポンプの普及により大量・急速施工が可能になったことから生まれたと考えられています。
19世紀に発明された鉄筋コンクリート技術のおかげで建造物はめざましく発展しましたが、内部の鉄筋の劣化という問題を抱えることで寿命は短くなってしまいました。
また、旧来は固い生コンクリートを型枠の中に突き込む文字通りの「打ち込み」が行われていましたが、ポンプによって打ち込み箇所まで運ぶことが一般化したことで水を多く含む軟らかい生コンクリートを使うことが多くなった結果、現在では寿命は50年~100年といわれています。
2. コンクリートを長寿命化させるユニークな技術
前述のように、コンクリートは構造の変化や施工法の変化、環境による劣化などによりかつて考えられていた半永久的な素材ではなくなってしまいました。
しかし、古代に用いられた知恵に学んだり、コンクリートと生物の組み合わせによって長寿命化を図るという取り組みで、メンテナンスの機会を極限まで少なくしようという試みがなされています。
2-1. 古代と現代の技術の融合 EIEN(エイエン)
日本のスーパーゼネコン鹿島建設と電気化学工業、石川島建材工業が共同で開発した技術です。
中国の西安市郊外にある大地湾遺跡で発掘された約5,000年前のコンクリートは、年月とともに表面が炭酸化という化学反応を起こすことで大理石のように滑らかになり、水などの浸食から自らを守っていたと言われています。
長寿命化コンクリートEIEN(Earth, Infinity, Environmentの略)では、コンクリートと特殊材料とを混合した上で表面を炭酸化させることで表面を炭酸カルシウムの結晶で緻密化させ、外部環境からの水や塩分の浸透を防ぎます。
このことにより耐久性は向上し、その推定寿命はなんと1万年といわれています。
参考URL:https://www.kajima.co.jp/news/digest/feb_2007/tokushu/toku01.html
2-2. バイオ技術の活用 Basilisk(バジリスク)
一方、バイオ技術(バクテリア)を活用してコンクリートを自己治癒させ、長寿命化を図るという技術も開発されています。
オランダ・デルフト大学で開発されたBasiliskという技術は、コンクリート中のような高いアルカリ環境でも生存できる種のバクテリアを利用し、その代謝活動で生じる炭酸カルシウムでひび割れを修復します。
この技術で用いられるバクテリアは、乾燥した環境下では芽胞(固い外皮)で自らを保護して休眠するという特徴を持ち、休眠状態では200年以上生きることが知られています。
この休眠したバクテリアと餌になる乳酸カルシウムを一緒に小さなプセルに封じ込めてコンクリートに混ぜることで、ひび割れが発生して水と酸素が供給されるとバクテリアは目覚めて炭酸カルシウムを発生させ、ひび割れを修復していきます。
この技術のほかにも、カビの菌を利用してコンクリートのひび割れを修復する技術や、イースト菌や納豆菌を利用する技術なども研究・発表がされています。
3. まとめ
日本では戦後急速に整備されたインフラ構造物が大規模な修繕や更新の時期を迎え、今後ますますインフラメンテナンス技術の需要は高まっていきます。
それとあわせ、今後新しく建設されるインフラ構造物については様々な形で長寿命化を図ることが推進され、国からも研究開発の後押しがされています。
安倍政権が掲げた「日本再興戦略」では、「自己修復材料などのインフラ長寿命化に貢献する新材料の研究開発を推進する」と明記されました。
研究開発によって日本国内のインフラ構造物を長寿命化させるのみならず、自己修復材料などの世界市場が30年に30兆円に達するとの推計をもとに、日本発の技術で世界をリードする狙いがあるようです。