コンクリート構造物の表面に発生する錆汁(さびじる)は、構造物の美観を著しく損なうとともに、コンクリート内部に設置した鋼材の腐食が原因で発生している場合が多いため,コンクリート構造物の劣化症状の一つとして留意しなければなりません。
ここでは、錆汁の正体および錆汁の発生要因について詳しく説明します。
1.コンクリートの錆汁とは
錆汁は、コンクリート中の鋼材が腐食して茶色や褐色の腐食生成物がコンクリート表面に滲み出たものです。
コンクリート中の鋼材としては、主鉄筋、あばら筋あるいはPC鋼材など、構造物の耐荷力に必要不可欠な鋼材の腐食や、仮設材として用いられた鋼材(セパレータや金属製のスペーサー)、取付金具などの腐食が原因となっているものがあります。また稀に、コンクリートの骨材に原因がある場合もあります。
鉄筋やPC鋼材の腐食が原因である錆汁は、これらの鋼材に沿ったひびわれから発生することが特徴です。
一般にコンクリートはpHが12~13の強アルカリ性であり、その中にある鉄筋などの鋼材の表面には酸素が化学吸着し、緻密な酸化物層が生じることで厚さ3nm程度(1nmは1mの10億分の1)の不動態被膜が形成されます。この不動態被膜によってコンクリート中の鋼材は腐食から守られるといわれています。
しかし、中性化によってpHが概ね11より低くなった場合や、塩害どによって塩化物イオン(Cl-)がコンクリート中に進入すると、鋼材表面の不動態被膜が破壊され、腐食が開始します。この腐食生成物である錆は、複雑な酸化反応により、さまざまな色調のものがあります。
2.コンクリートの錆汁は何故発生するのか
錆汁の発生要因についてもう少し詳しく説明します。
錆汁は,大きく三つの要因により発生することが知られています。
要因その1
要因の1つ目は、構造物に取付けた金具が雨水にあたり、錆汁が流れたような場合です。
表面を著しく汚し,景観上は大きな問題となりますが,錆汁そのものが構造物の信頼性を損なうことはありません。
要因その2
要因の2つ目は,コンクリート中の鋼材(主に鉄筋)の腐食により発生するものです。
錆汁の主成分は,酸化鉄(Fe2O3,Fe3O4,FeOOH など)であり,FeCl3 ではありません。ここで重要なのは、本来強アルカリ性であるコンクリート内部の鉄筋が何故腐食するのかであり、錆汁はあくまで変状の結果であることに留意しなければなりません。
コンクリート内部の鋼材が腐食し、錆汁が発生する要因を下表に示します。コンクリートの中性化、塩害そして乾燥等によるひびわれが要因として考えられます。
表―1 鉄筋腐食の要因
要因その3
要因の3つ目は,コンクリートの構成材料である骨材に鉄鉱石などが含まれている場合に発生するものです。
近年、千葉県の某建築物で発生した打放しコンクリート外壁の表面がポップアウトし、錆色の汚れが発生した事例を紹介します。
不具合が発生した建物は、1994年竣工の地下2階、地上20階、延べ床面積が80,000m2のS造事務所ビルで、2002年に外壁が錆色に汚れている現象が確認されました。目視検査の結果、汚れの規模は5,000m2の外壁に約1,000箇所程度の錆汁とポップアウト現象が認められました。
当初は鉄筋や結束線の被り不足が原因と考え、構造物の調査を実施しましたが、錆状物質の付着物はコンクリート表面のみで、その箇所に合致するコンクリート内部にはそれらが存在しないことが分かり、コンクリート被り厚不足が錆発生の原因ではなく、コンクリート使用骨材に原因があると考え、骨材の再調査を実施しました。その結果、砕石中に含まれる黄鉄鉱(FeS2)が原因であることがわかりました。
コンクリート表面に近い箇所に黄鉄鉱を含有する骨材が存在すると、酸素と水がコンクリート表面から供給されることで、黄鉄鉱は水酸化第二鉄に変化し4~5倍程度体積が膨張します。ポップアウト現象が生じたのはこれが原因と推定されました。また、コンクリート表面で空気と接触した水酸化第二鉄は、酸化鉄(Fe2O3:赤褐色、Fe3O4:黒褐色)に変化し、錆汁となって雨水とともにコンクリート表面に溶出しました。
3.錆汁の補修方法
錆汁が発生した構造物を補修するためには、まず鋼材腐食の原因を調査し、その原因に適用した工法を採用して鋼材の腐食の進行を防ぐことが重要です。特に錆汁が発生している構造物は、コンクリート中の鋼材の腐食が進行しているものと予想されるため、電気防食工法や亜硝酸リチウムなどの鉄筋防錆材の活用を検討する必要があります。
仮設材などの錆汁に関しては、構造物の安全性に影響を与えないため、サンダーによる研磨と補助的に塩酸による払拭を併用するのがよいでしょう。
まとめ
コンクリート構造物の表面に発生する錆汁(さびじる)は、構造物の美観上からクレームになるケースが多いですが、最も問題視しなければならないことはコンクリート内部に設置した鋼材の腐食です。コンクリート内部の鋼材の腐食は、構造物の耐久性に直結する問題ですので十分留意する必要があります。