コンクリート新聞(第6面) 2017年4月20日号
「アイザワ技術研究所 自己補修技術で講演 科学反応でひび割れ充填 先進インフラフォーラム」
アイザワ技術研究所は4月12日、札幌市の北海道大学学術交流会館で「先進インフラテクノロジーフォーラム、バイオコンクリートと『自己治癒』の未来」を開催した。
このフォーラムはコンクリート構造物の長寿命化をテーマに、建設業界の動向や會澤高圧コンクリートが今夏から上市するバイオテクノロジーを活用した関連技術について講演したもの。主催は會澤高圧コンクリート(會澤祥弘社長)の技術研究機関のアイザワ技術研究所。後援が會澤高圧コンクリート。
講師に招かれたのは日経アーキテクチュアの浅野祐一副編集長と、オランダのデルフト工科大学のヘンドリック・M・ヨンカース教授。浅野副編集長は建設の先進技術とその将来像について、ヨンカース教授はバクテリアを用いたバイオテクノロジーによる自己治癒コンクリートについて講演した。
講演に先立って開会のあいさつに臨んだ、會澤祥弘社長は、ストック型社会資本の時代の到来を迎えて「我々は2つのチャレンジを行う必要がある。一つは既存施設の劣化にどう対処していくか。もう一つはこれから出来る施設の長寿命化にどう対処していくか。本日、紹介するヨンカース教授が研究・開発した技術はこの2つに高い次元で貢献できるものと考えている。我が国とオランダの間には遠く江戸時代に蘭学というかたちで西洋の学術・文化を取り入れた頃から、長く豊かな歴史がある。今回も、往事の新しい技術を真摯に学び取る姿勢を持って、グループとして業界のなかでの役割を果たしていきたい」と述べた。
社会資本長寿命化へ 目立つ異業種間コラボ
続いて演壇に立った日経アーキテクチュアの浅野副編集長は国土交通省が2013年を社会資本メンテナンス元年と位置付け、以降、長寿命化計画を推進している点を挙げ、こうした全体的な方向性に従来にない先進技術で対応するために、異業種デベロッパーの積極的な建設業界への参入が目立っている例を紹介した。
浅野氏は「共同技術開発についても建設とAIのコラボによるものや建設とロボットのコラボによるものをはじめ、建設とバイオテクノロジーや建設とバイオミメティクス(生物模倣)とのコラボによる開発の事例も出てきている。こうしたケースからもわかる通り、いま、建設業界にはかつてないほどに外部の業界からの関心と注目が集まっており、建設とその関連業界がそうした環境にも積極的に対応していくことが、結果的に新たな市場の拡大に繋がっていく可能性はある」と述べた。
最後に演壇に立ったのが、バイオテクノロジーを活用した自己治癒コンクリートを開発した、デルフト工科大学のヘンドリック・M・ヨンカース教授だ。
同校はオランダ最古の工科大学であり、欧州の理工系大学で第2位にランクされる(2016年、Times World University Ranking)。特にヨンカース教授が所属する土木工学・地球科学部は研究レベルの高さに定評がある。同教授が開発したバクテリア利用の自己治癒コンクリート技術はその独創性を評価され、欧州特許庁(EPO)主催の「ヨーロピアン・インベンター・アワード2015」のファイナリストとなった。
この技術はバシラス属のバクテリア胞子をバクテリアの餌(栄養分)となる乳酸カルシウムで圧縮・固化し、さらに生分解性プラスチックの殻で覆って粒子状のカプセル「HA」を生成し、このHAを所定量、配合して生コンクリートを製造する。コンクリートの硬化後に殻が徐々に脆くなり、実際にコンクリートにひび割れが発生すると、割れ目から浸透した水にバクテリア胞子が反応して餌である乳酸カルシウムと酸素を取り込み、コンクリートと同じ成分である炭酸カルシウムを生成して自然にひび割れた部分を埋めていくことで補修するというもの。
既にこの研究開発にスピンオフして地元に設立されたバイオベンチャー企業によって「バジリスク」として製品化されており、生コンクリート向けのHAの他、既存コンクリートの補修に用いる液体型のER7やモルタル型のMR3も開発されている。會澤高圧コンクリートはこれら3製品の販売を行う。
技術を開発したヨンカース教授は「自分はもともと微生物等の生物学者であり、当初は自分の研究がコンクリートに応用できるとは思わなかった。しかし、それから10年が経ち、現在では3つの製品が上市されている。発想の根本は、自然の物質が持つ環境ストレスに対する適応機能が、自己治癒材料としてコンクリートの補修の世界にも活用できるのではないかと考えたもので、結果的に環境面でも負荷を軽減できる技術が開発できた。自己治癒コンクリートは、イニシャルコストは従来品よりもかかるが、長く供用する際に新しい材料によるメンテナンスが不要で、供用を休止する必要もなくなるため、パフォーマンスも良く、サスティナビリティが有るといえる。当初の課題であった強度面も技術的にクリアして、製品化以来、順調な経過が報告されている」としている。今後は、自己治癒コンクリートの特徴を活かして、構造物としての設計コンセプトを変えていける様な営業展開も志向している。
記事はこちらからご覧ください「コンクリート新聞(第6面) 2017年4月20日号」」