近年は、地球温暖化に伴う自然災害が多発し、それによって尊い人命が失われるという痛ましいニュースを毎年の様に耳にします。
地球温暖化の原因と思われるガスにはさまざまな種類がありますが、なかでも二酸化炭素は全温暖化排出ガスの約75%を占めており、最も温暖化への影響が大きいと言われています。
人類は18世紀の産業革命以降、化石燃料を大量使用し続けていることで、結果大気中の二酸化炭素の濃度は今も増加し続けているのが現実です。
では、なぜ地球上の二酸化炭素量が増加すると温暖化現象が起こるのでしょうか。
地球温暖化は次のようなメカニズムで起こると言われています。
まず、太陽から地球に届く日射エネルギーの約70%は大気と地面に吸収され熱に変わります。この時地表面から放射された赤外線は、大気中の温室効果ガスに吸収、再放射され、地表を適度な温度に保ちます。
しかし、温室効果ガスの濃度が上昇すると、過剰に赤外線を吸収、再放射してしまい、地上の温度が上がることで、結果的に地球全体の温度が上昇してしまいます。
このまま温室効果ガスを排出しつづければ、間違いなく地球は崩壊に向かって進んでいきます。
この記事では、二酸化炭素の排出を実質ゼロに向けたコンクリート業界の進むべき道を説明していきます。
この記事でわかること
1. 日本における二酸化炭素の排出量
日本全体で年間に排出されている二酸化炭素量は、いったいどれくらいなのでしょうか。
じつは2013年度をピークとして少しずつ減少してはいるものの、まだ年間11億t以上の二酸化炭素を毎年排出し続けています。
又、国別で比較しても、日本は中国、アメリカ、インド、ロシアに次いで世界で5番目に多く排出しているのが現実です。
2. 建設活動に関する二酸化炭素排出量
日本のインフラ整備を担う建設業では日本の二酸化炭素排出量のうち、建設活動に関する割合は、およそ43%に達すると言われています。
建設業には、建築工事及び土木工事という2大工事部門がありますが、両工事部門の二酸化炭素排出量を以下に示します。建設工事、土木工事共に工事全体で排出される二酸化炭素量の30%以上が、セメント、コンクリートの製造時に排出されていることが分かります。
コンクリートの原料であるセメントは多量の二酸化炭素をその中に固定化している石灰石で作られています。セメントの製造工程では、石灰石を焼成することにより二酸化炭素が多量に排出されます。地球環境が悠久の時間をかけて固定化した二酸化炭素を、文明社会はあっという間に大気に放出してしまうわけです。
コンクリートは比較的安価で大量生産ができ、安全性や耐久性も高い材料であるため、建築構造物やインフラ構造に用いられるようになってから100年以上が経っています。
一方私達の建設業界は現在までコンクリート構造物を乱立し、取り壊しては再び建て直すという20世紀モデルを継続してきました。
すなわち二酸化炭素の排出を含む、環境への負荷をあたり前の様に継続して来たことになります。
今こそ、20世紀モデルから脱却し新しいモデルの構築が、二酸化炭素排出の低減には必要不可欠なのです。
私たちが快適な社会生活を求めれば、社会インフラ整備や生活環境を整えるために、これら資源の消費は必要不可欠です。 近年激しさを増す気候変動が二酸化炭素を含む温室効果ガスの増加に起因するならば、直ぐにでも行動に移すべきです。
私達は脱炭素に向けての重要なアプローチは次の3つと考えます。
(1) 新設コンクリート構造物の長寿命化を図り、政策的に二酸化炭素の消費量を削減する。
(2) 既存のコンクリート構造物を補修により延命していく。
(3) 産業界から排出される二酸化炭素をコンクリート内部に永久的に封じ込める。
これら3つのアプローチを進めていくことで、必ず実質二酸化炭素排出ゼロを達成できると信じています。
3. 二酸化炭素排出量実質ゼロに向けて
ここでは、私達コンクリート産業界が排出する二酸化炭素の実質ゼロを達成するために行うアプローチについて詳細を説明していきます。
3-1. 新設コンクリート構造物の長寿命化を図り、政策的に二酸化炭素の消費量を削減する。
コンクリートには練り混ぜ時に多くの水分が使用され、この水はセメントとの水和反応で消費されるほか空気中に蒸発することで減少し、その際にコンクリートは収縮します。この乾燥収縮によって、コンクリート構造には大小の差はあれ、収縮ひび割れが発生してしまうことを避けることができません。また、塩化物など外部からの要因によってひび割れが発生することも多々あります。
これらのひび割れが引金となり、コンクリートの劣化が進行していきます。
このように、コンクリートにおいて避けることができないひび割れについて、コンクリート自らひび割れの発生を検知し、そして自ら補修の必要性を判断する。そして、その判断に基づいて自ら補修を行うコンクリートを自己治癒コンクリートと呼びます。
コンクリートに発生したひび割れをコンクリート自身が感知し、内部に組み込まれた修復機構によって、人の手を加える事なく自ら修復を進めていく。そんな夢のような技術、「自己治癒コンクリート」がいま現実のものとなっています。
この技術の展開によりコンクリートは長寿命化し、スクラップ&ビルドの時代に終止符を打つことが出来るのです。
自己治癒コンクリートの研究は世界中の様々な機関で行われており、近年では「微生物とコンクリートの融合」とも言うべくバイオ技術を活用した修復技術に注目が集まっています。
オランダ、デルフト工科大学のヘンドリック・M・ヨンカース准教授が率いるチームにより開発されたバクテリアの代謝活動を利用してコンクリートに発生したひび割れを炭酸カルシウムで自己治癒していく技術(Basilisk HA)です。
材料は、休眠状態のバクテリアと餌の元となるポリ乳酸を特殊な装置で攪拌します。この製法によりバクテリアの周りをポリ乳酸で保護することでバクテリアの生存率は格段に向上します。
生コンクリートの製造時に他の原材料と同時に投入することで、ポリ乳酸は加水分解を起こし分子量が減少し、バクテリアの餌となる乳酸カルシウムに変化していきますが、あわせてコンクリート中の強アルカリ環境によりこの変化は加速されます。
コンクリートが硬化しひび割れが発生すると、ひび割れから雨水と酸素が侵入します。これにより、ひび割れ近傍のコンクリートのPHが低下していくことで、バクテリアは休眠から目覚め、分裂を繰り返します。
分裂したバクテリアは、周りの乳酸カルシウムを摂取し、炭酸カルシウムを排出します。
この炭酸カルシウムがひび割れを埋めていくのです。
これに加えて、バクテリアは炭酸カルシウムと一緒に水と二酸化炭素を排出します。この排出された水が、まず、ひび割れ表面の未水和のセメントと反応して水酸化カルシウムとなり、その後二酸化炭素と反応することで、炭酸カルシウムとなり、細かなピンホールも埋めて行きます。
完全にひび割れが埋まり、外部からの水や酸素が遮断されると、バクテリアは再び休眠状態となり、次のひび割れの発生に備えます。
3-2. 既存のコンクリート構造物を補修により延命していく。
すでに建てられている既存のコンクリート構造物についても、補修を行っていくことでライフサイクルを伸ばし、建て替えせずに延命していくことが、二酸化炭素の排出抑制に繋がります。
自己治癒機能を持った補修材もすでにオランダ発で開発されており、液体タイプ(Basilisk ER7)とモルタルタイプ(Basilisk MR3)が用意されています。
液体タイプ(Basilisk ER7)は、床に発生した0.3㎜までのひび割れの内部に深く浸透し、バクテリアが栄養分と酸素を消費することで生成された炭酸カルシウムは、ひび割れや細孔内部に沈積して埋めていく技術です。
またモルタルタイプ(Basilisk MR3)はモルタルの再劣化に対して、モルタルに含まれているバクテリアと栄養分が水と接触することでバクテリアが活動を開始し炭酸カルシウムを生成します。
生成した炭酸カルシウムは、モルタル自身のマイクロクラックや構造物とモルタルの境界面を炭酸カルシウムで埋めることで、止水性能を回復します。
これらの自己治癒材料は會澤高圧コンクリート株式会社が、Basiliskブランドでの国内における製造販売を開始しています。
3-3. 産業界から排出される二酸化炭素をコンクリート内部に永久的に封じ込める。
産業界から排出される二酸化炭素をコンクリート内部に永久的に封じ込める技術を紹介します。
3-3-1. CarbonCure (カーボンキュア)
コンクリートの材料であるセメントの製造には、原料を焼く「焼成」という工程があります。その燃焼温度は最高で1450°に達し、二酸化炭素が多く排出されます。1tのセメントを造る時に排出される二酸化炭素は約800kgと言われており、1m3のコンクリートに350kgのセメントが使用された場合、コンクリート1m3中のセメントによる二酸化炭素排出量は約280kg/m3となります。
一般的な生コンクリートの製造に伴う二酸化炭素排出量は約350kgであるため、セメントだけで約80%を占めるのです。
コンクリートの製造には必ずセメントを使用する為、二酸化炭素の排出を削減することは、容易なことではありません。
しかし、産業界から排出される二酸化炭素を液化して、永久にコンクリート内に封じ込める技術により、コンクリートの実質的な二酸化炭素排出量を削減することは可能です。
それがカナダで開発されたCarbonCure(カーボンキュア)です。
CarbonCureの技術は、化学工場などから採取したCO₂を純粋液化し、ローリー車で生コンプラントに設置された専用タンクまで配送します。
生コンプラントではセメント、骨材、水などが計量され、それらがミキサーに投入された直後に、液化二酸化炭素を直接ミキサー内部に注入します。液化二酸化炭素は、空気に触れた瞬間に「CO₂スノー」と呼ばれる粒子となって水に溶け込んで炭酸水となり、セメントの水和物のひとつである水酸化カルシウムと結合して、400ナノメートルという微細な炭酸カルシウムの結晶を形成します。
この化学反応は、セメントの水和により生成される水酸化カルシウムをより多く生成し、化学反応の熱も同時に発生するという相乗効果で、初期の水和は加速的に進むのです。
CarbonCureの技術は、セメントの水和を加速的に進めることができるため、硬化後のコンクリートの圧縮強度は、およそ5~10%増加することが実験により検証されています。つまり、要求されるコンクリートの圧縮強度を満たすためのセメント使用量を戦略的に減らすことが可能となります。
セメント使用量の適切な削減による配合修正で、生産コストを低減させながら、低炭素型の環境にやさしいコンクリートを供給することに繋がります。
3-3-2. Blue Planet(ブループラネット)
アメリカのBlue Planet社は2012年の創業以来、環境負荷低減を目標にCO2有効活用技術の開発とその事業化に取り組んでいます。
具体的には、未使用または廃棄されたコンクリートからカルシウム成分を抽出し、発電所や化学工場などから排出される二酸化炭素を吹き付け、炭酸カルシウムに反応させながら、小石状に成形してコンクリート用骨材に再生します。
一般的なコンクリートを製造する場合と比べ、1m3あたり約230キログラムの二酸化炭素を削減できます。
ブループラネットの炭素回収骨材は、2016年にサンフランシスコ国際空港でのプロジェクトでコンクリートに使用されました。同社は来年、年間生産能力が約2万トンのプロトタイプ工場を開設し、2年以内に約40万トンに達することを目指しています。 。
3-3-3. 二酸化炭素吸収型コンクリートの実用化
中国電力株式会社、鹿島建設株式会社、デンカ株式会社の3社が開発した二酸化炭素を有効利用できる環境配慮型コンクリート「製品名:CO2-SUICOM」を紹介します。
この技術は、製造過程において、硬化前のコンクリート製品を養生槽内に設置し、養生槽内に二酸化炭素を注入してコンクリートに吸収させるものです。発電所や化学工場から排出される二酸化炭素をはじめとした様々な排出源からの二酸化炭素を有効活用することが可能です。
CO2-SUICOMは特殊混和材が二酸化炭素を吸収して硬化するため、セメント使用量の大幅な削減が可能となります。また、フライアッシュや高炉スラグ等の産業副産物を利用することで、二酸化炭素吸収量と合わせた二酸化炭素排出量(材料由来)を実質0以下にすることを可能とします。
しかし、二酸化炭素をコンクリート内に大量に吸収すると、中性化によってアルカリ性が損なわれ、鉄筋を含んだコンクリート二次製品や現場打ちコンクリートに適用することが困難となっています。
また、特殊な材料と製法を用いることから、一般製品と比較して価格が割高にることが欠点です。
4. まとめ
地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素。この温室効果ガスの排出量を可能な限り減らし、実質的にゼロの状態を目指した脱炭素社会を実現することが、地球環境を守るために重要です。
2020年10月26日、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言し、2020年12月25日、経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
その実行計画の中で、新技術に関する国交省データベース(NETIS)に CO₂吸収型コンクリートを登録し、地方自治体に広く周知することが明記されました。さらに、2050 年までには防錆性能を持つ新製品を開発し、建築物やコンクリートブロックに用途拡大をすることで販路を更に拡大することも明記されました。
地球温暖化によって激しさを増す気候変動が二酸化炭素を主流とする温室効果ガスの増加が原因であるならば、コンクリートメーカーとして我々は何をなすべきか。
一つ目として、コンクリートを自己治癒型のインテリジェント材料化し、新設コンクリート構造物の長寿命化を進める。二つ目として、自己治癒系補修材料で既存コンクリートへの延命措置を施す。最後にコンクリートへのCO2固定化技術の開発。
この3つのアプローチを再編集し、強力に推進することで、コンクリートの「脱炭素化」を目指し取り組む必要があるのです。