コンクリートは構造物に必要な性能(耐久性や耐震性、耐火性や遮音性等)を付与する事が容易で非常に経済的な材料であり、土木や建築の構造物の主要材料として活用され、公共施設や建築物の利用などで、私たちは身近にコンクリート構造物に接しています。
コンクリート構造物の品質は施工技術に大きく左右される他、建築後に厳しい自然環境に曝され、また、時間の経過とともにコンクリートが伸縮するために、コンクリート特有の問題が発生します。身近に目にするコンクリート表面のひび割れはそのひとつであり、ひび割れの制御や発生後の対策などは技術的課題となっています。
今回はコンクリートを打設した直後に発生する「初期収縮によるひび割れ(プラスティック収縮ひび割れ」について着目し、説明していきたいと思います。
1. コンクリート打込み直後の初期収縮によるひび割れとは?
初期収縮によるひび割れとは、コンクリート打込み直後のまだプラスティック(可塑=柔らかく形を変えやすい)な状態での急激な水分蒸発によって表面の体積が減少するのに対して、内部の体積は変化しない為、表面だけが収縮(縮まろうとする)することでひび割れが発生します。これが初期収縮によるひび割れ(プラスティック収縮ひび割れ)になります。
発生形体としては、田んぼの水が干上がった時のひび割れと同じように、網目状のひび割れが発生します。
2. 初期収縮によるひび割れのメカニズム
コンクリートは、セメント、水、砂、砂利などを練り混ぜ固めて作られた建築材料です。コンクリートに水が用いられている理由は、「セメントと結合(水和)し硬化する為」、「コンクリートの施工性を確保する為」の2点であり、コンクリートを使用する上で非常に重要な材料になります。
コンクリートは、練り混ぜられた直後はやわらかく成型性に優れていますが、水を用いて造られた材料であることから、乾燥することによって水分が蒸発し体積が減少することで、収縮してしまいます。その収縮を、内部で拘束する(妨げようとする)ことで表面部分にひび割れが発生します。
発生時期は、凝結の始まりからブリーディング水が吸収されるまでのごく初期に発生し、コンクリートの表面全体にわたって、比較的短い表面ひび割れが発生します。
水の蒸発
表面部分は乾燥(水の蒸発)によって体積減少(収縮)する。
内部はプラスティック(可塑)な状態の為、体積減少(収縮)せず、表面部分の収縮を妨げようとします。
コンクリート表面の初期収縮によるひび割れの発生のしやすさは、コンクリートがおかれる気象条件や使用するコンクリートによって変わってきます。打設時に以下の条件に当てはまる様であれば対策を講じる必要があるでしょう。
初期収縮によるひび割れを発生させやすい気象条件
(乾燥を誘発する気象条件)
①気温の高い場合
②風の強い
③直射日光があたる
初期収縮によるひび割れを発生させやすいコンクリート
(ブリーディングが少ない事によって乾燥しやすいコンクリート)
①高強度コンクリート等セメント量が多く粘性の強いコンクリート
②単位水量が少ないコンクリート(高性能AE減水剤を使用している場合等)
3. 初期乾燥によるひび割れの対策
ここでは初期乾燥によるひび割れの対策方法について説明していきたいと思います。
対策としては、「乾燥(水の蒸発)を防止する。」ことが基本的な対策になります。コンクリートの打込み後、急激な水分の蒸発によって表面部分が乾燥する事で発生するひび割れなので、乾燥(水分の蒸発)を防止することが重要です。乾燥を防止する方法としては以下のような方法があります。
①通気性のないフィルム等でコンクリートの露出面を覆う事で水分の蒸発を防ぐ。
主に気象条件に対する対策として有効です。
②塗膜養生剤等をコンクリート打込み直後に散布することで水分の蒸発を防ぐ。
主にブリーディングの少ないコンクリートを打設する場合に有効で、塗膜養生剤には水分の蒸発を防止するほか、高強度コンクリート等、ブリーディングが少なく粘性が高いコンクリートでは表面仕上げを行う事が難しいですが、塗膜養生剤を散布する事で、コテ滑りやコテ切れ等の仕上げ性を改善する効果も付与する事が可能となります。
4. まとめ
初期収縮によるひび割れは、「乾燥を防ぐ」という非常に単純な対策で防止する事が出来ますが、
施工当日に急に対策を行おうと思っても準備をするのは大変です。気象条件や使用するコンクリート等、施工にあたって事前に予測・検討し、計画的に対策をたてる事で初期収縮によるひび割れの発生を防止しましょう。