生コンクリートを型枠に打ち込んだ後、構造物に荷重が作用しているわけでもなく劣化が進んでいるわけでもないのに、初期に起こるひび割れを初期ひび割れと呼びまます。
一般的な初期ひび割れには、「プラスチック収縮ひび割れ」と「沈下ひび割れ」があります。
そのなかでも生コンクリート打設後、比較的早期に発生しやすいのが沈下によるひび割れです。
沈下ひび割れは、特にコンクリートのスラブ上面に発生しやすいことから、そのまま放置すると構造体の耐久性を低下させるひとつの要因にもなります。
ここでは、沈下によるひび割れの特徴や発生要因、発生メカニズム、予防について解説していきます。
この記事でわかること
1. 沈下によるコンクリートひび割れの特徴
1-1. 沈下によるひび割れの発生箇所
一般的には、生コンクリート打ち込み後数時間で水平鉄筋の上に規則性のある直線状の表面ひび割れが発生しますが、特に鉄筋のかぶりが足りない場合には発生の頻度は多くなります。
型枠面ではセパレータの位置にひび割れが入ることがあります。
また、壁・柱と梁・スラブの接合部の上部など高さに差のある部分にも発生しやすくなります。
2. 沈下によるひび割れを発生させる要因
2-1. 材料に起因する要因
生コンクリートは、もともと密度の違う材料を生コンプラントで練り混ぜて製造される製品です。
練り混ぜ中は、セメントと水で作られるセメントペーストがバインダーの役割をしながら細骨材と粗骨材の間に充填され、その後「水和」と呼ばれる化学反応が徐々に進むことで、コンクリートは凝結から硬化過程へと進んで行きます。
一般的にセメントの水和反応に必要な水の量はセメント質量の約30%前後と言われています。
生コンクリートの製造に必要な水の量(これを単位水量と呼びます)は施工に支障をきたさない範囲で少ないことが望まれるのですが、あまり少ない水の量で製造されたコンクリートは、流動性が低く施工しづらくなる為、硬化後のコンクリートに締め固め不足によるジャンカや、打ち継ぎによるコールドジョイントなどの不具合を発生させる原因になります。
そこでスムーズな施工を可能にする為に、打設箇所にもよりますが10~30%に相当する余剰水を追加して生コンクリートは設計されています。
すなわち、コンクリートの硬化や強度発現に関係する水の量は30%前後であり、その他の10~30%の水はスムーズな施工を行う為に必要な水ということになります。
先ほど、生コンクリートは密度の違う材料を練り混ぜて製造すると書きましたが、使用される主材料の密度の例をあげると、セメントの密度は約3.1~3.2程度、細骨材、粗骨材の密度は約2.5~2.7程度、水の密度は1です。
これらの材料を一度に練り混ぜるのですから、当然一番密度の軽い水の中の水和に使用されない余剰水の一部は、コンクリート内部や型枠の表面を伝わってコンクリート表層部へ向かって上昇して行きます。
この水をブリーディング水と呼びます。
当然コンクリートの設計段階での単位水量が多いほど、ブリーディング水の量も増える訳ですが、実はこのブリーディング水が、沈下ひび割れの大きな原因のひとつとなっているのです。
またいくら単位水量を抑えたコンクリートでも、細骨材や粗骨材の粒度に問題がある場合、その練り混ぜられたコンクリートは分離に対しての抵抗性が低くなり、同じように沈下ひび割れを発生させる原因となってしまいます。
2-2. 施工に起因する要因
施工時にコンクリートの打ち込み速度が速い場合や、打ち込み高さが大きい場合、打ち込まれた生コンクリートが分離しやすくなり、それに伴ってブリーディング水の量が多くなることで沈下ひび割れは発生しやすくなります。
また、壁・柱と梁・スラブの接合部などのような打設高さの違う部分を一度に打設すると、コンクリートの沈下量は打設高さに比例して大きくなるので、これもひび割れを発生させるひとつの原因となります。
3. 沈下ひび割れの発生メカニズム
ではここからは、なぜブリーディング水が多いコンクリートを使用して打設すると沈下ひび割れの発生頻度が増えてしまうのかを発生メカニズムをもとに説明していきます。
まず打ち込み後、数時間をかけてブリーディング水は少しづつコンクリートの表面へ上昇して行きますが、コンクリートの表面高さは、全体にもとの高さより下がってしまう現象が起きます。
これはブリーディング水がコンクリート表面に上昇後、蒸発していくことでコンクリート自身の体積が減ってしまうからです。
しかし、コンクリート中に配筋された鉄筋上部のコンクリートは鉄筋によって沈下が拘束される為、コンクリート表面の硬化収縮の段階で、段差が生じ引張力が働きます。
この時点でのコンクリートはまだ完全な硬化の状態ではなく、引張に対する強度も十分では無い為、鉄筋に沿って直線的なひび割れが入ってしまうのです。
型枠内面にも同様にブリーディング水の影響によりセパレータの位置にひび割れが残る場合があります。
4. 沈下ひび割れへの対策
沈下ひび割れは単位水量が少ない、すなわちブリーディング水が少なく尚且つ材料分離抵抗性の高いコンクリートを使用し、打ち込みの速度や高さ、順序に配慮することで抑制することが出来ます。
もし発生してしまった場合でも、沈下ひび割れの多くは打設後数時間で収束する為、表面のブリーディング水を取り除き、沈下した箇所にコンクリートを足して再度均すことや、タンピングなどの処理により再振動を与えることでコンクリートが柔軟性を取り戻し、表面のひび割れは修復されます。
この時点で丁寧にひび割れを修復しておけば、後々問題になることは余りありません。
タンピングとは、コンクリートの表面をコテや細かい網目状の器具により軽く叩いて成型することをいいます。
5. おわりに
以上沈下ひび割れについての特徴や発生要因、発生メカニズム、予防について解説してきましたが、ひび割れの発生するメカニズムは複雑であり一般的なひび割れの多くは、いろいろな原因により起こることが多いのですが、沈下ひび割れの多くは他のひび割れと比較し、打設後早期に発生する為、比較的発見しやすく原因がつかみやすいひび割れといえます。
また見つかった時点ですぐに対処することで、修復も可能なひび割れです。
抑制対策のひとつとして、材料である生コンクリートのブリーディング水が大きく影響を与えることから、単位水量の少ないコンクリートを使用して打設することがあげられますが、骨材事情によっては、どうしても単位水量が多くなってしまう地域もあるのが現状です。
そういった場合も、減水効果の高い化学混和剤を使用することで単位水量を低く抑えることが可能になります。
また、材料分離抵抗性を増す為に、最適な粒度分布となっている細骨材、粗骨材を使用することも重要です。
これらは、出荷前に生コンプラントに相談することをお勧めします。
またコンクリートの打ち込み時には分離を防ぐ為にも、可能な限り低い位置から、また打設の速度はゆっくりと、高さの違う部分では打ち込み順序に注意して施工することが重要です。
材料と施工の両面を考慮することで、沈下ひび割れは抑制することが出来ます。