経済界 2018年12月1日号

世界で認められた高いコンクリート技術を
元にイノベーションで進化する

會澤高圧コンクリート社長  會澤祥弘

北海道を拠点に生コンから大型コンクリート構造物の供給まで、幅広い事業を展開している。1935年の創業以来、道内の企業を10数社友好的にグループ化して、点から面へエリアを拡大。現在では海外展開や研究開発に力を入れ、AIやブロックチェーン、遺伝子工学の要素を取り入れたイノベーションに挑戦している。

独創的な技術力が評価され海外から次々とオファーが

コンクリート産業は高度経済成長の時代を経て大きく発展してきたが、1997年をピークに公共事業の見直しが始まって需要は最盛期の3分の1までに落ち込んだ。道内でも多くの会社が再編、淘汰されていったが、同社は逆に優良な会社を次々と買収、業績を拡大していった。3代目の社長となる會澤祥弘氏が大手新聞社を退職して入社したのは98年のこと。

「東北と新潟を足したくらいの広さがある北海道では、1社で全域を押さえるのは難しく、ネットワークが必要です。後継者不在などのケースもあり、縁あって10数社を買収しましたが、すべて上手くワークしています。陣取りもありますが、M&Aの真の狙いは、人材の獲得と社内の再活性化。外から入ってきた買収先の社員たちが気兼ねなく活躍できる社風が強みです」

道内のマーケットシェアを押さえて量を確保しても薄利多売では何の意味もない。

「生コン業は、国の規格があって、その通りに製造していれば良かった時代が長かったのですが、今は流動性、高強度などさまざまなニーズがあります。だから1立方平方メートルあたり1万円のものもあれば、3万円に迫るものもある。今後は規格品の大量生産から細かなニーズを処方する生コン製品のデザイン力が鍵になると思います」

自社にしかできない競争力のある製品を造るには技術力が必要だが、同社はそこに強味がある。例えば海外展開の端緒ともなったベトナムのサイゴン川の地下道路建設のプロジェクトであるが、同社に声が掛かったのは厳しい自然環境の中で一定の品質のコンクリートを安定供給する現場力。地質の関係から在来工法ではできなかったので、陸上で一基2万5千トンもの巨大なコンクリート製ボックスを計4基製作し、船で曳航して川底に沈めてトンネルを作る手法だ。

「沈埋函工法といって、土木系の技術者にとってはしびれるような技術。そのコンクリート供給を一手に担った」

これをきっかけに国内外の建設会社から大型案件が舞い込むようになり、モンゴル、ロシアなどの寒冷地を含む世界の7地域で事業を行っている。

「北海道のマイナス20度、30度で培ってきた温度・湿度管理技術があったからこそ出来たことですが、今、面白いのは海外ですね。自社の技術力をさらに高めるためにも斬新な開発案件が多い海外の方が特に魅力的です」

大学からスタートアップベンチャーまで幅広く協業を模索

2009年には技術研究所を設立して自社技術を磨いているが、その一方で海外との技術提携にも積極的に取り組んでいる。その1つがオランダのデルフト工科大学が開発した技術を取り入れた自己治癒コンクリート。バクテリアの能力を生かして、劣化してひび割れした部分を自然に修復する技術だ。

「材料工学とバイオテクノロジーの融合で、メンテナンスが不要なコンクリートができれば画期的です。また自己治癒能力を高めるために、バクテリアのゲノム編集も米MIT系のスタートアップ企業と共同研究しています。ゲノムといえば創薬、食料関連が中心ですが、そこに建材分野も現れたので研究者の間では面白がられているようです」

コンクリートは砂利、水、セメントを混合させて製造するが、場所や気候、用途などによって緻密な配合設計がある。とはいえ、人間の目視に頼るファジーな部分も多いので人間の知覚を超えた制御をするためにAIの研究を進めている。

「製造工程にAIを活用するのが当社最大のテーマの1つです。完成すれば同業者も含めて、皆さんが利用できるようにパッケージ製品にします。人手不足の時代で、われわれのような産業の採用は厳しさを増すと思います。ならば、人がいなくても製造できる技術をつくっておくことも必要でしょう」

さらにはロボットがコンクリートを印刷する技術もある。樹脂で積層造形する3Dプリンターが普及し始めているが、それのコンクリート版。家やビルをプリントして造る時代を目指し、世界のハイテクベンチャーと共同研究している。

會澤社長が思い描く企業の未来像は、最先端のテクノロジーをどんどん取り入れてコンクリートを進化させ、エッジの効いた経営をすること。

「その先の研究テーマは社長がいなくても回る会社。SNSやブロックチェーンはマーケティングや契約だけでなく、会社の在り方そのものを変える可能性があります。それで会社が成長するなら、社長としての私は不要になるかもしれませんね」(笑)

道路や橋やトンネルをはじめ、巨大建築物の基礎的な部分で生かされる技術で世界が評価した同社の底力。北海道という寒冷地の劣悪な環境下で磨かれたその技術の進化の先には、経営の仕組みさえも変える可能性を秘めている。

経済界 2018121日号

記事はこちらからご覧ください「20181201 経済界

新規CTA